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焦点:大規模海底マッピング進める中国、対米「潜水艦戦」に備え

2026年03月26日(木)18時45分

2019年10月、中国青島の桟橋に停泊中の深海調査船「東方紅3」。 cnsphoto/REUTERS

Pete Mckenzie

[シ‌ドニー 24日 ロイター] - 中国が太平洋、インド洋、北極海で大規模な海底地図作成と監視活動を展開し、米国とその同盟国に対する潜水艦戦‌を行う場合に不可欠な海洋情報の収集を進めていることが、海軍専門家らの分析で明らかになった。

ロイターが入手した船舶追跡データによると、中国海洋大学が運用する調査船「東方紅3」は2024年​から25年にかけて、台湾とグアム近海、インド洋の戦略的要衝を何度も往復航行した。同大学によると、24年10月には日本近海に設置された中国製海洋センサー群を点検し、25年3月にはマラッカ海峡への接近路をカバーするスリランカ・インドネシア間の海域を格子状に航行した。

同大学は、この船が泥の調査と気候研究を目的としていたと説明している。しかし、同大学研究者らが共同執⁠筆した科学論文では、広範囲にわたる深海マッピングも実施していたことが示されている。海軍戦​術の専門家や米海軍関係者は、東方紅3が収集する深海データが、中国の潜水艦運用能力の向上と敵潜水艦の追跡に役立つと指摘する。

東方紅3は単独で活動しているわけではない。ロイターは今回の調査にあたり、中国政府や大学の記録・学術論文を精査するとともに、ニュージーランドのスターボード・マリタイム・インテリジェンス社の船舶追跡プラットフォームを活用し、太平洋・インド洋・北極海で活動する42隻の調査船の5年以上にわたる航跡を分析した。

調査結果を検証した9人の海軍専門家によると、これらの活動には漁場調査や鉱物探査といった民間目的も含まれるが、軍事目的にも資するものだという。

海底地形データを収集するため、調査船は狭い間隔で往復しながら海底をマッピングする。ロイターが追跡した船舶は、三つの海域にわたってこうした航行パターンを示していた。追跡した船舶のうち少なくとも8隻が海底地図作成を実施しており、さらに10隻が関連機器を搭載していたことが、中国国営メディアや大学・政府機関の公表資料から確認された。

オーストラリア潜水⁠艦隊の元司令官、ピーター・スコット氏は、これらの調査データは「戦闘空間の準備において非常に貴重なものとなる可能性がある」と述べ、「有能な軍潜水艦乗りなら誰でも、自分が活動する環境を理解するために多大な努力を払う」と語った。

船舶追跡データは、中国の海底調査がフィリピン周辺や、グアムやハワイ近海、ウェーク島など軍事的に重要な海域に重点的に行われていることを示している。

西オーストラリア大学の防衛・安全保障学非常勤教授で元豪海軍対潜水艦戦将校のジェニファー・パーカー氏⁠は「その規模の大きさを見​れば、中国が潜水艦作戦を中心とした遠征型の外洋海軍能力を構築しようとしていることは明らかだ」と語った。パーカー氏をはじめとする専門家らは、データが科学目的で収集される場合であっても、民間研究と軍事技術開発の統合が習近平政権の重要な焦点となっていると指摘する。中国政府が「軍民融合」と呼ぶアプローチだ。

中国の国防省、外務省、自然資源省はコメント要請に回答しなかった。米国防総省も同様だった。

今月、米議会委員会で証言した米海軍情報局のマイク・ブルックス少将は、中国が調査活動を急速に拡大し「潜水艦の航行、潜伏、海底センサーや兵器の配置を可能にする」データを収集していると指摘した。また、中国調査船による「潜在的な軍事情報収集」は「戦略上の懸念事項」だと述べた。

米国も海洋の地図作成・監視に関する取り組みを最近刷新したが、追跡システムをオフにすることが認められている軍艦を使用している。中国の民間調査船も追跡を無効にすることがあるため、その活動範囲はロイターが把握した以上に広い可能性がある。

「中国の海洋科学研究の規模の大きさには、率直に言って驚かされる」と、米海軍大学校で中国の海洋戦略を専門とするライアン・マーティンソン准教授は述べた。「数十年にわたり、米海軍は海洋戦場に関する知識において非対称的な優位性を享受してきた」とした上で、中国の取り組みは「その優位性を損なう恐れがあり、明らかに非常に憂慮す⁠べき事態だ」と警告した。

<第一列島線>

海軍専門家によると、調査船が収集している海底・水中状態のデータは潜水艦作戦と対潜水艦戦の双方で死活的に重要だという。パーカー氏は、指揮官が衝突回避と艦艇の秘匿のために水中地形情報‌を必要としていると説明する。

さらにそのデータは、水面から数百メートル以内で活動する潜水艦の探知にも不可欠だ。潜水艦は通常、発する音やソナー信号の反響によって識別されるが、元米潜水艦艦長で現在は新アメリカ安全保障センター非常勤上級研究員のトム・シュガート氏は、これら⁠の音波の動きは海底地形に⁠よって変化すると指摘する。音波や潜水艦の動きは、水温・塩分濃度・海流によっても左右される。

調査を行う船舶は、天然資源部などの中国国家機関や、海洋大学のような国営研究機関に所属している。海洋大学の学長は2021年、中国海軍との「緊密な関係」と「海洋大国建設と国防」への取り組みを公に称賛していた。同大学はコメント要請に応じなかった。

中国がこれまでで最も包括的な海洋調査を実施したのは、フィリピン東方の第一列島線沿いの海域だ。第一列島線は、北は日本の島々から台湾を経て南はボルネオ島まで続く、主に米国の同盟国が支配するラインであり、中国沿岸と太平洋の間の自然の障壁をなしている。

「彼らは第一列島線に閉じ込められることを極度に恐れている」と、元駐米豪海軍武官で豪海軍協会会長のピーター・リービー氏は語った。「中国によるマップ作成は、海洋領域を理解し、そこから抜け出すことを望んでいることを示している」

追跡データによると、調査範囲は一部の米原子力潜水艦が配備されているグアム周辺海域も及んでいる。さらに中国の船舶は、ハワイ周辺の海域のほか、米国が最近アクセス権‌を得たパプアニューギニア海軍基地の北方にある海嶺(かいれい)、そして南シナ海とオーストラリアの潜水艦基地を結ぶ航路上のクリスマス島周辺も調査していた。

中東・アフリカからの石油輸入に依存する中国にとって生命線であるインド洋でも、広範囲にわたる​測量が実施されている。「‌調査結果は、中国がインド洋でこれからさらに多くの潜水艦作戦を実施する可能性が高いこと⁠を示している」とパーカー氏は述べた。

中国の船舶は北極圏への重要な航路であるアラスカ西方・北方の海底も調査した。北京は北極圏を戦略​的最前線と位置づけ、2030年代までに極地圏で大国となる野望を表明している。シュガート氏は、広範囲にわたる調査と増大する水中能力は「中国が主要な海洋大国として台頭していることの兆候だ」と述べた。

<「透明な海」>

中国科学院の発表によると、2014年頃、海洋大学の研究者、呉立新氏が特定海域の水の状態と動きを包括的に把握できるセンサーを配備し「透明な海」を実現するという構想を提案した。この提案はすぐに山東省政府から少なくとも8500万ドルの支援を受けたという。

プロジェクトは南シナ海で始まり、海洋大学の公式発表によると、現在は深海盆地を網羅する観測システムが構築されているという。米海軍情報局のブルックス氏は議会委員会で、中国が「水温、塩分濃度、海流などの水路データを収集し、ソナー性能を最適化して潜水艦を継続的に監視できるようにする」海底監視ネットワークを構築していると述べた。

その後、中国の科学者たちはこのプロジェクトを太平洋とインド洋に拡大した。自然資源部や海洋大学、山東省政府の記録によると、日本東方、フィリピン東方、グアム周辺の海域に数百個のセンサー・ブイ・海底アレイを設置し、水温・塩分濃度・海流といった水質変化を検知‌している。インド洋では、「東経90度海嶺」も含めてインドとスリランカを取り囲むようにセンサーアレイが展開されている。この海嶺は戦略的に重要なマラッカ海峡の入り口に位置しており、中国向け原油の主要ルートでもある。

海洋大学と中国科学院傘下の海洋研究所は、センサーネットワークの拡大によってリアルタイムの水中データが取得可能になったと主張している。海戦専門家の中には、水中リアルタイム通信の技術的課題を理由に慎重な見方を示す者もいるが、前出のパーカー氏は遅延したデータであっても​米潜水艦作戦の探知に役立ち得ると述べた。

センサーの多くは機密性の高い場所に設置されている。ロイターは最近、米国が台湾とフィリピンの間の海峡の体制を強⁠化して中国艦船が太平洋に出るためのルートをふさごうとしていると報じた。海洋大学の研究を見ると、米潜水艦が南シナ海に到達するために通過する海峡の一部にも高度なセンサーを配備したことが分かる。

中国の科学者たちはセンサーが気候・海洋状況の監視を目的としていると説明しているが、2017年に山東省の政府関係者は、透明海洋プロジェクトが「海上防衛と安全保障を確保する」ことを目的としていると明言し、米国の海洋センサーネットワークと明確に比較した。

山東省政府、中国科学院、海洋研究所はコメント要請に応じなかった。

プログラムを発案者である呉氏は現在、青島海洋科学技術国家実験室を通じてネットワークを統括している。同​実験室のウェブサイトによると、パートナーには中国海軍潜水艦学院も含まれている。呉氏はロイターの質問に回答しなかった。

<新たなタイプの戦闘能力>

中国は海底地図作成と監視を組み合わせることで、ライバル国の潜水艦を探知し、緊張が高まる海域に自国の潜水艦を展開するための高度な手段を獲得しつつある。

「これは中国の遠洋進出の表れだ」と、シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究院の海洋安全保障担当上級研究員、コリン・コー氏は述べた。「彼らは今、平時であろうと戦時であろうと、自らが活動しようとする海洋領域について、かなり正確な全体像を把握している」

中国の研究者たちも自身の研究に戦略的意義を見出している。インド洋と太平洋のセンサーアレイを統括する海洋大学の研究者、周春氏は昨年、自身の研究によって「我が国の海洋防衛力と軍事力の急速な発展」を実感したと述べた。同氏はロイターの質問に回答しなかった。

周氏は今後、「最先端の科学技術成果を、わが国の海上における新たな種類の戦闘能力へと転換していく」とも述べていた。

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