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焦点:イラン新指導者にハメネイ師次男のモジタバ師、「反米」継承で遠のく早期終戦

2026年03月09日(月)08時50分

3月9日、テヘランのスクリーンに映し出された新最高指導者モジタバ師の写真。Majid Asgaripour/WANA (West Asia News Agency) via REUTERS

Samia Nakhoul Parisa Hafezi

[ド‌バイ 9日 ロイター] - イランの最高指導者を選出する権限を持つ「専門家会‌議」が、米国とイスラエルに殺害されたハメネイ師の後継として次男のモジタバ師(56)を​選出したと発表した。モジタバ師を「受け入れられない」と宣言していたトランプ米大統領の方針を真正面から否定する動きと受け止められている。

モジタバ師の最⁠高指導者就任によってイラン体制は強硬派で固め​られる形となり、米国・イスラエルとの戦争が早期終結する望みは遠のいた。

米首都ワシントンのシンクタンク、中東研究所のアレックス・バタンカ上席研究員は「(ハメネイ師の後を)モジタバ師が継いだため、(イランの姿勢は)変わらない。これほど大規模な危険の大きい作戦を実行し、ハメネイ師殺害を成し遂げたのに(最高指導者が)強硬派の息子に代わっただけ、というのは米国にとって大きな屈辱だ」と指摘した。

<対決継続の道>

複数の⁠専門家の見立てでは、イランはモジタバ師を最高指導者に選んだことでこれ以上ないほどはっきりしたメッセージを発信した。つまり指導部はいかなる妥協も拒否して体制を維持し、対決と復讐、忍耐以外の道筋は受け入れないとい⁠うことだ。

イラン​内部の人物の話では、モジタバ師は今後すぐにも、不満を抱える国民と激化する戦闘という内外からの重圧に直面するだろうが、速やかに権力の強固な足場を築くという。

それは革命防衛隊に対する幅広い指揮権を掌握するほか、国内の統制を強め、全面的な反対派抑圧に乗り出すことを意味する。

米国とイスラエルの攻撃開始以前、国内で数カ月続いた反政府デモが1979年のイスラム革命以降最悪の流血事態をもたらした中で、イラン体制には弱体化の兆しが見えていた。背景にあるのは西側の制裁で疲弊した経済や物価高騰、通貨暴落、広がる貧困などへの不満だ。

ただイラン政府に近い地域当局者の1人はロイターに「世⁠界は彼の父(ハメネイ師)の時代を恋しがるだろう。モジタバ師は『鉄拳』を誇示する以外に選択肢は‌ない。戦争が終わったとしても、深刻な国内での弾圧が起きる」との見方を示した。

<報復の連鎖も>

イランの内部情報に詳しい別の人物も、⁠モジタバ師の⁠下で国内の統制が強まるとともに、対外的にはより攻撃的、敵対的な姿勢が打ち出されるとみている。

中東研究所のポール・サレム上席研究員は、モジタバ師は米国と取引したり、イランの外交方針を転換したりする立ち位置にはないと明言。「妥協が可能な人物は誰も現れていない。これは強硬な局面でなされた強硬な選択だ」と述べた。

米国を「大悪魔」と呼ぶことで知られるイラン聖職者らの目には、暗殺されたハメネイ師は「殉教者」と映る。聖職者らは、ハメネイ師を英‌雄的人物として描き、抑圧に対する犠牲と抵抗の象徴であるイスラム教シーア派のイマーム・フセインになぞらえている。

米​国の元外交官‌でイラン専門家のアラン・エイヤー氏は「モ⁠ジタバ師は父親よりもさらに強硬だ」と説明し、モジタバ​師は革命防衛隊に望まれた候補で「多くの復讐を行うだろう」と警告した。

そうなるとさまざまなリスクが生じかねない。イスラエルは、ハメネイ師の後継者が誰であっても標的になり得ると表明しているほか、トランプ氏はイランの軍指導者と支配層が排除されない限り、戦争は終わらないかもしれないと発言しているからだ。

<小さな最高指導者>

モジタバ師はこれまで、西側との関係改善を提唱する改革派に反対し、保守派聖職者や革命防衛隊と近い関係にあることで、政治機構や治安機関への影響力を確‌保した。

専門家の分析によると、モジタバ師はハメネイ師の下で影響力を高め、治安機関やその支配下にある巨大なビジネス帝国で主要人物として活動し、長年にわたりハメネイ師の門番、いわば「小さな最高指導者」として振る舞ってきて​いる。

モジタバ師は、シーア派神学の中心地であるコムの神学校で保守派聖職者⁠から学び「フッジャトルイスラム」という聖職位を持つ。

米財務省は2019年にモジタバ師を制裁対象としており、同師が選挙を経て公職に就いたことがないにもかかわらず、最高指導者を公式に代表していたと指摘した。

そのモジタバ師が最高指導者に選ばれたことについて、ペルシャ湾岸のある関係者は「​トランプ氏と米政府に対してイランが決して引き下がらず、最後まで戦うというメッセージだ」と語った。

一方、中東研究所のサレム氏は、イランがたどる道は1991年以降のイラクのサダム・フセイン体制、もしくは2012年以降のシリアのアサド政権と同じだと分析する。いずれも数年の戦争を生き延びて孤立した後、次第に権力を失っていく流れだ。

サレム氏は「対外強硬姿勢をさらに推進する半面、国内はひどい状況に陥り、根底から不安定化する」と述べた。

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