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焦点:ロシアに今も溢れるナイキやレゴ、背後にグレーな輸入業者

2024年06月22日(土)08時12分

2年前、ロシアがウクライナに対する全面侵攻を開始してまもなく、スポーツウエア大手のナイキは自社製品のロシア向け販売を停止した。だが、それでもロシアのサッカークラブ、ゼニトが所有するオンラインスポーツショップは営業を続けている。写真はロシアのオンラインショップに掲載されているナイキの靴。11日撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)

Tassilo Hummel Gleb Stolyarov Polina Nikolskaya David Gauthier-Villars

[パリ 15日 ロイター] - 2年前、ロシアがウクライナに対する全面侵攻を開始してまもなく、スポーツウエア大手のナイキは自社製品のロシア向け販売を停止した。だが、それでもロシアのサッカークラブ、ゼニトが所有するオンラインスポーツショップ「footballstore.ru 」は営業を続けている。

同サイトに並ぶ多数のナイキブランド製品の1つが、サッカーシューズ「ファントムGT2エリート」。価格は2万9999ルーブル(約5万3300円)だ。

こうしたシューズをロシアに持ち込んでいるのは、ウィジナンド・へリンクス氏(40)。モスクワ在住のオランダ人だ。メーカーがロシアから撤退してしまった西側ブランド商品をロシアの消費者に供給する事業で大きな成功を収めている。

モスクワ郊外にあるオフィスからビデオ通話でロイターの取材に応じたヘリンクス氏は、「ナイキは自社製品がロシアに出荷されるのを望んでいない」と語る。オフィスの棚には西側ブランドのシューズの箱が積まれている。「だが、私たちにそれを止めろと言っているわけでもない」

ナイキとレゴの両社はロイターに対し、ヘリンクス氏が自社製品をロシアに輸入する許可を与えていないと述べた。

ロイターでは税関のデータや法人登記簿、社内文書を検証し、またヘリンクス氏本人への取材を通じて、同氏の事業がナイキやレゴを含むブランド商品をどうやって入手しているかを確認した。ロシアとの明白な関係がない仲介業者をバイヤーとして使い、それから多くはトルコを経由して商品をロシアに出荷する。最終的な納品先はロシアの小売企業だ。

ロイターが税関のデータを分析したところ、少なくとも数十社の企業がヘリンクス氏のようにグレーな取引手法を駆使して西側製品をロシアに持ち込んでいることが明らかになった。ヘリンクス氏の事業からは、ロシア経済を孤立させようという西側諸国の政府やブランドの取り組みが、「需要さえあれば誰かがそれを満たす」というグローバルビジネスの現実という壁にぶつかっていることが分かる。

西側政府による輸出制限は、主としてロシアの戦時体制のための兵器製造に用いられる工業製品が主眼だ。その種の製品は通常、米国と欧州連合(EU)の制裁対象となっている。ヘリンクス氏は、制裁の対象外である消費財に注力していると語る。ロイターが見たところ、同氏の企業が制裁に違反している証拠はない。

だが、ヘリンクス氏が経営するような企業はロシア経済を間接的に助けている。ロシアの消費者は、1世代以上前の共産主義体制の崩壊以来、慣れ親しんできた外国製品を今も購入することができる。ロイターが検証した税関のデータによれば、例えばロシアにおけるナイキ製品の輸入額は、2022年には81%減の2100万ドル(約33億1000万円)へと急落したものの、2023年には少なくとも7400万ドルまで回復している。

ナイキは、ヘリンクス氏の企業やその系列企業には供給していないと表明した。同社は声明で「すでにロシアには、ナイキが所有する実店舗やオンラインショップは存在しない」とし、「ロシア向けには出荷していないし、取引相手にはロシアでの製品流通を認めていない」と説明した。また、無許可の流通チャネルを調査する専門チームを設けていると明らかにした。広報担当者は、ナイキ製品のロシアへの流入経路に関する問い合わせには回答しなかった。

ロシア政府によるウクライナ侵攻を受けて、ナイキは2022年半ば、ロシアからの撤退を進めていると発表。レゴもロシア事業を閉鎖中だと発表した。

ウクライナ侵攻を巡ってグローバルブランドが販売や輸出を停止する中で、ロシアは企業に対し、商標権保持者の許可なしに海外から製品を輸入することを認めた。ロシアは、2023年末までの2年間で、いわゆる並行輸入品が総額700億ドル以上に達したと明らかにした。

一部の法務専門家によれば、西側ブランドがこうした無許可の製品流通について賠償を求めるのはロシア法のもとでは難しく、知的財産権の執行は通常は侵害が発生した地域にひもづいているため、ブランド側としては法律的な選択肢がほとんどないという。

パリ政治学院(シアンス・ポ)で学部長を務めるロシア人エコノミストのセルゲイ・グリエフ氏は、西側ブランド製品の流通が続いていることで、ロシアのプーチン大統領にとっては「戦争はロシア中産階級の『日常生活』を損なっていない、というメッセージを打ち出せるように」なっていると指摘する。

<「誇りに思う」>

ヘリンクス氏がロシアで経営する企業は従業員数82人、2024年の売上高見通しは3500万ユーロ(約59億1600万円)だ。決算書によれば、昨年の売上高は2370万ドルだった。

ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年当時、ヘリンクス氏はヘルマン・ワールドワイド・ロジスティクスというドイツ企業のモスクワ支社で働いていた。ヘリンクス氏によれば、ヘルマンでは20人以上のチームのリーダーとして、現地事業を開設することなくロシアでの販売を希望する外国企業にサービスを提供していた。

侵攻開始後、ヘルマンはすぐにロシア撤退を決定した。ヘリンクス氏はロシアに残った。ロシア人女性と結婚しており、子どももいたからだという。「私たちの生活はこの国にある。私たちの全ては、この土地で築いてきた」と同氏は言う。

ヘリンクス氏はヘルマンのロシア事業の1つを買い取り、「ヘリンクス・トレード・ソリューションズ・ロシア」(HTSルス)と改称し、2022年4月に妻の名義で法人登記した。ヘリンクス氏は当初はヘルマンのメールサーバーを借用し、マーケティングにもヘルマンのロゴのバリエーションを使っていた。

ヘリンクス氏もヘルマン側も、かつての勤務先だったヘルマンのインフラの一部を使用可能とする事業移行契約を結んでいたと話している。ヘルマンによれば、同社のロゴを使う契約は2022年10月に終了し、それ以降は同社の知的財産が同意なしに使われていたという。ヘリンクス氏は、使用継続は単なるミスで、2024年1月にはヘルマンのロゴの使用を停止したと述べている。ヘルマンは、現在ではヘリンクス氏の事業とは何の関わりもなく、ロシアではまったく事業を行っていないとしている。

ヘリンクス氏の企業は顧客の情報を開示していない。だがロイターでは、この企業がロシアの税務当局に提出した書類を閲覧することで、ロシア国内の顧客をいくつか特定した。その中には、ロシア最大手のスーパーマーケットチェーンやオンライン小売企業も含まれていた。

ヘリンクス氏は、自分の会社は良き企業市民であり、慈善活動にも参加していると語る。事業について取材に応じることを決意した理由について、同氏は「私たちがやっていることはかなりクールで、誇りに思っているから」と話した。

<欧州ルート>

ヘリンクス氏が挙げた成果の1つが、レゴのブロック玩具の輸入だ。デンマーク企業であるレゴは、ロシア向けには輸出しないという方針を厳格に守っている。ヘリンクス氏、レゴ双方によれば、レゴが小売企業や流通企業に販売する場合も、ロシア向けに転売してはならないと契約に明記しているという。

この制約を回避するために、レゴとロシアの間にいくつもの仲介企業を入れている、とヘリンクス氏は言う。ヘリンクス氏が仕入れるブロックの一部は、最初は同氏の事業とはまったく関係のない欧州内の企業がレゴから調達する。企業名は教えてくれなかった。その後、ヘリンクス氏が所有するHTSヨーロッパB.V.というオランダ登記の法人が、この企業から製品を買い取る。

製品は欧州からロシアに向け、税関を経由しつつ直接トラックで輸送される、とヘリンクス氏は説明する。

融資データ及び税務書類によれば、ロシアに到着すると、レゴ製品はヘリンクス氏のロシア国内事業であるHTSルスの管理下に入る。ヘリンクス氏はロイターに対し、玩具専門小売企業を中心に、48社ほどのロシア企業にレゴを供給していると語った。

「私の子どももレゴで遊んでいる」とヘリンクス氏は言う。「他の子どもたちがレゴで遊ぶことにもまったく異論はない」

とはいえ、レゴにとってはヘリンクス氏の事業は問題である。

4月末、ロイターがレゴにコメントを求めようと連絡を取ったところ、同社はHTSルスに対し、ウェブサイト上でレゴと取引関係があるという虚偽の主張をしていると非難する文書を送ったという。HTSルスはこれを受けて英語版ウェブサイトを修正し、レゴのフィギュアの画像を削除し、代わりに一般的な子ども向けプラスチック玩具の画像に差し替えた。だが6月13日現在、ロシア語版サイトにはまだレゴのロゴ画像が掲載されている。

レゴはロイター宛ての声明で「当社は2022年3月にロシア向けのレゴ製品出荷を停止していることから、こうした製品の流れを知り懸念している」と述べている。「この問題を軽視せず、しっかりと対処する一方で、業務を継続している地域における現地法令をきちんと順守していく」

<トルコ経由で輸送>

西側製品の一部は、グレーな手法によるロシア向け輸出の一大拠点となっているトルコを経由して流入している。ヘリンクス氏は、ナイキ製品と一部のレゴ製品は、HTSポエル・ディス・ティカレット・リミテッド・シルケティという企業を経由して、トルコで調達していると話す。この企業は、トルコの小売企業や流通企業から商品を調達しているという。

HTSポエルの共同創業者であるムラト・エルベルガー氏はロイターに対し、制裁対象製品にはまったく関与していない、と語った。「合法的なビジネスだ」とエアベルガー氏。HTSポエルとヘリンクス・トレード・ソリューションズとの関係に関する質問には答えなかった。またロイターでは、西側製品がグレーな手法によりトルコ経由でロシアに流入していることについてトルコ大統領府広報局にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

2022年6月から2023年12月までの税関データからは、HTSポエルが少なくとも400万ドル相当のナイキ製品をロシアに供給したことが分かる。ヘリンクス氏は、自分の知る限り、これらのナイキ製品は全て同氏の企業向けに出荷されたものだと語った。

ロシアに到着したナイキ製品は、ヘリンクス氏の顧客である小売企業へと運ばれる。税務記録やHTSルスの社内文書によれば、そうした顧客の1つが、冒頭で紹介した「footballstore.ru」だ。法人登記簿によれば、この小売サイトはサッカークラブ「ゼニト」が100%所有している。

ゼニトのスポンサーはロシア国営ガス企業のガスプロムであり、オーナーの中にはガスプロムバンクの名もある。この金融機関は、ロシアの銀行セクターに対する米国の制裁対象となっている。ガスプロムバンク、ガスプロム、ゼニトはコメントの要請に応じなかった。

ロイターは、オンライン小売業者からナイキのサッカーシューズ「ファントムGT2エリート」を購入した。商品は10日後に配達された。ナイキはこのシューズについてコメントしなかった。

靴の箱に記されていた製造年月日は2022年9月だった。これはナイキがロシア事業からの完全撤退を発表した3か月後に当たる。また箱には、HTSルスが輸入業者であることを示すラベルが貼られていた。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
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