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アングル:中国人口減に歯止めか、独身女性の体外受精 一部で解禁

2023年05月07日(日)07時41分

 IVFが中国全土で自由化されれば、既に世界最大の不妊治療市場となっている中国で需要がさらに拡大してもおかしくないため、投資家の間でも期待が広がっている。写真は不妊治療を専門とする北京の病院で4月6日撮影(2023年 ロイター/Tingshu Wang)

[香港/北京 29日 ロイター] - 人口減少にブレーキをかける取り組みを進めている中国にとって、33歳の女性チェン・ルオジンさんのケースが1つの打開策になる可能性を秘めている。

離婚を経験したチェンさんが暮らす四川省の省都、成都市は今年2月、婚外子の出生登録を合法化。これによって以前は結婚したカップルにだけ付与されていた出産休暇や児童手当の受給資格が、結婚していない女性にも認められた。

チェンさんから見て重要だったのは、市当局が民間医療施設における体外受精(IVF)も解禁したことで、今彼女は妊娠10週目に入った。

物流現場の仕事に携わるチェンさんは「シングルマザーになることはみんなにとって幸せとは言えないが、私は喜んで決めた。結婚するのと同じく、しないのも個人の判断だ。私はIVFを受けている多くの独身女性を知っている」と話した。

中国政府のアドバイザーは3月、過去60年で初めて人口が減少に転じ、急速な高齢化が進行する社会への懸念から、結婚していない女性に卵子凍結とIVF治療の利用を認めるよう提案した。

IVFが中国全土で自由化されれば、既に世界最大の不妊治療市場となっている中国で需要がさらに拡大してもおかしくないため、投資家の間でも期待が広がっている。

INVOバイオサイエンスのアジア太平洋事業開発ディレクター、イブ・ライペンス氏は「中国が政策を変更して独身女性が子どもを持つのを許したなら、IVF需要の増加につながる可能性がある」と述べた。同社は現在、中国でIVF技術を展開するため当局の承認を待っている状態で、昨年には広州市の企業と提携契約を結んでいる。

ただライペンス氏は、突然需要が上向けば中国が抱える供給制約の問題も一層大きくなってしまうと警告した。

中国国家衛生健康委員会(NHC)はIVF解禁についてのコメント要請には応じていないが、多くの若い女性が結婚や子どもを持つ予定を先送りし、教育費や育児費用の高さのために婚姻率が低下してきたと認めている。

NHCの四川支部は2月に婚外子登録やIVFを承認した際に、これは長期的にバランスの取れた人口の進展を促す狙いだと説明した。

上海市と広東省も婚外子登録は認めたものの、独身女性のIVF利用は引き続き禁止している。

<膨大な需要>

ライペンス氏は、新型コロナウイルスの流行前にフル稼働していた中国のほとんどのIVFクリニックは、再び同じ状況に直面する公算が大きいと予想する。IVFを受けたくても受けられない人々の具体的な推計値は存在しないが、治療中の何人かの女性は、診察を受けるまで数時間かかると明かした。

四川省の重慶市でIVFを受けている34歳の既婚女性は「病院には順番待ちの非常に長い列ができている」と語った。

学術誌や業界専門家によると、中国の官民の病院やクリニックは年間で約100万ラウンドのIVF治療サイクルを提供している。他の外国は通常150万ラウンド。治療費は中国では3500―4500ドルと米国のおよそ4分の1に規制されている。

中国にある官民のIVF取り扱い施設は539カ所。NHCは2025年までに230万人当たりに1カ所の割合で設置する方針で、実現すれば施設数は600カ所を超える。

中国のIVF市場は治療、医薬品、関連機器を含めて25年には足元の497億元の2倍近い854億元に達するとの調査結果もある。

中国のIVF施設に製品やサービスを供給しているメルク・チャイナのマネジングディレクター、ビビアン・チャン氏は、経済的にはあまり豊かでない内陸部の都市でも、北京や上海と似たような不妊治療施設の整備が急速に行われていると述べ、この分野で満たされない膨大な需要がある以上、中国のIVF市場の先行きを「とても楽観している」と付け加えた。

中国では男性優位の社会構造や独身女性の妊娠に対する偏見、包括的な調査が存在しない点などから、近い将来IVFを巡る政府の方針が変更されたとしても、総需要とその後の需要拡大ペースを把握するのは難しい。

しかし手掛かりはある。

不妊治療クリニックや技術に投資しているリチャージ・キャピタルのカミラ・カゾ氏は、中国国外で中国人女性に年間で50万のIVFサイクルが提供されていると語った。これは中国国外におけるIVFサイクルの3分の1に相当する。

<広がる選択肢>

米国ではIVFサイクルの平均成功率は52%。これに対して北京の不妊治療専門病院のディレクター、リン・ハイウェイ氏によると、中国の場合、女性が受けるストレスの高さや平均出産年齢の上昇などのため成功率は30%強しかない。

人口問題の専門家は、中国には所得の低迷や教育費の高さ、社会的な安全網の不備、男女格差といったもっと関心を払うべき別の要素があるので、不妊治療サービスを提供しても人口減少の解決にはつながらない、とも主張している。

それでもIVFを全面解禁すれば、一定の影響は及ぼしそうだ。

リン氏の試算では、既に中国でIVFを通じて生まれた子どもは30万人前後と、新生児全体の約3%を占める。

同氏は「近くこれに関連した政策が打ち出され、子どもをほしがっている多くの人々を満足させ得ると信じている」と語った。

確かに中国では近年、出産をあきらめたり先送りしたりする女性も増えてきたとはいえ、全体的に見れば母親になりたい女性はなお多い。

湖南省出身で国際金融論を専攻する22歳の大学生ジョイ・ヤンさんは、テレビでIVFの話を最初に耳にした時、中国全土で解禁してほしいと思ったと話した。そうなればパートナーは探さなくとも金銭面の条件次第で子どもが持てるからだ。

「結婚はしたくないが、それでも子どもはほしいと思う相当数の女性はいる。私はIVFを選択するかもしれない」と語った。

(Farah Master記者、Xiaoyu Yin記者)

ロイター
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