ニュース速報

ワールド

アングル:中国企業のベトナム投資活発化、米中摩擦の回避狙う

2023年03月18日(土)08時12分

 中国が昨年12月に「ゼロコロナ」政策を解除して以来、同国からベトナムへの企業投資が急増している。写真は2017年11月、ハノイの大統領府で行われた中国の習近平国家主席の歓迎式典を前に、両国国旗を手にするベトナムの子供。代表撮影(2023年 ロイター/Hoang Dinh Nam)

[ハノイ 16日 ロイター] - 中国が昨年12月、新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を解除して以来、同国からベトナムへの企業投資が急増している。見えてくるのは、既にベトナムに進出している中国や世界各国の大手メーカーと取引関係がある中国のサプライヤーが、米中貿易摩擦の影響を回避するためにベトナムに拠点を設けるという構図だ。

ベトナム政府のデータからは、同国において年初からの50日間で中国企業が45件の新規プロジェクトに投資し、国別でどこよりも多いことが分かる。専門家に話を聞くと、そうした案件の大半はやはり中国系の中小サプライヤーだった。

背景には、米政府がハイテク関連製品の中国向け輸出規制をじわじわと強化していることや、米中双方が互いに報復関税を発動する展開の中で、中国にいては商売がしにくいという事情がある。さらに中国の人件費高騰も背中を押す要因だ。

工業不動産を専門に扱うBWインダストリアル・デベロップメントでリース事業のシニアディレクターを務めるマイケル・チャン氏は「ベトナムでの製造施設建設投資に関し、中国企業からの問い合わせが昨年10―12月になって飛躍的に増加した。実際の中国勢の投資も目を見張るほど増えている」と明かした。

<国境を越えて>

サムスン電子やキヤノン、アップル製品の受託生産を行っている鴻海精密工業と立訊精密工業といった大手メーカーは、いち早くベトナムに進出し、同国ではスマートフォンやプリンターなどさまざまな製品の工場団地が多くの地域に広がっている。

一方、これらのメーカーのサプライヤーは依然として中国が主体。米シンクタンク、ブルッキングス研究所の貿易専門家、デービッド・ダラー氏がアジア開発銀行のデータを用いて計算したところでは、2021年時点でベトナムの輸出品の原材料輸入先の2割強を中国が占め、比率は17年の2倍近くに上昇した。

そして、複数の業界幹部は、大手メーカーのベトナム工場に製品やサービスを提供する中国の中小企業が、特に中国国境に近いベトナム北部への投資の主役になっていると説明する。

例えば、中国勢が牛耳る太陽光パネル製造の分野では、プラスチック製パネルや金型鋳造、エネルギー貯蔵などのサポートを請け負う企業が、ベトナムに入ってきたという。

米不動産コンサルティングのCBREグループのデータを見ると、昨年のベトナムにおける工場の居抜き物件への主な2件の投資取引の背後には、蓄電池を手がける古瑞瓦特(グロワット)を含めた中国の太陽光パネルのサプライヤーの姿が浮かび上がってくる。また、工場リースについても、中国の電子機器、ロボット、家電などのメーカーの支払額が全体のトップクラスだった。

世界全体が新型コロナウイルスのパンデミックから平常に戻るのに苦戦する中で、外国からベトナムへの投資額は全体的には減少しているが、中国企業による製造施設建設投資だけは、今年これまでに2億5000万ドルと前年同期比で3倍に膨らんだ。この投資額は国別でシンガポールに次ぐ大きさで、従来は投資規模が中国を上回っていた韓国や日本などもしのいでいる。

ベトナム北部の工業団地「ディープC」のセールスディレクター、クン・スーネンス氏はロイターに対し、昨年の中国企業との契約調印件数は年末にかけて急増し、10―12月期は他のどの国の企業も上回ったと説明。「中国からの問い合わせ状況を踏まえると、この流れは今年も続くと見込まれる」と付け加えた。

スーネンス氏によると、新たに自動車部品の厦門日上集団や、太陽光パネル部品の杭州福斯特応用材料、電気自動車(EV)充電施設の星星充電などが進出してきたという。

<歴史的な対立>

中国企業のベトナム進出にはリスクもある。両国は血で血を洗う戦いを繰り返してきた歴史があり、今も南シナ海の領有権を巡る対立は消えていない。そうした中でベトナム国民の反中感情の高まりから、2014年には中国への大規模な抗議デモの一部参加者が暴徒化し、中国企業を襲う事件もあった。

ベトナムでは中国企業からの投資申請は特に注意深く審査される傾向があり、あるコンサルタントによると、従業員の労働ビザや労働許可の取得にもより長い時間がかかる。

それでも中国のサプライヤーがベトナムにやってくる流れは止められない。BWインダストリアル・デベロップメントのチャン氏は「中国企業の大半は、先にベトナムに移動した顧客のために進出してきている」と指摘した。

(Francesco Guarascio記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ペプシコの第1四半期決算、海外需要堅調で予想上回

ビジネス

仏ケリング、上期利益が急減の見通し グッチが不振

ワールド

トランプ前米大統領、麻生自民副総裁と会談=関係者

ワールド

北朝鮮「圧倒的な軍事力構築継続へ」、金与正氏が米韓
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中