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アングル:加ケベック州・フランス語優先の移民政策、産業界は不満 

2022年06月20日(月)10時05分

 カナダのケベック州が進めるフランス語を話す移民を増やす取り組みを巡り、産業界で不満がくすぶっている。写真は5月、フランス語に関連した法案96に抗議する英語話者たち。モントリオールで撮影(2022年 ロイター/Christinne Muschi)

[モントリオール 12日 ロイター] - カナダのケベック州が進めるフランス語を話す移民を増やす取り組みを巡り、産業界で不満がくすぶっている。同州は求人率が高いだけに、経営者から労働市場のひっ迫に対処するにはさまざまな出自や経歴を持つ人材を受け入れる必要があるとの声も出ている。

ケベック州は他の州と異なる独自の移民選考プログラムを持つ。州政府はこれまで新たに受け入れる永住者の数を減らし、期限付き滞在許可を持つ労働者への依存を高めてきたが、今度は経済移民に占めるフランス語話者の割合を高める方針を打ち出した。

ルゴー州首相は今年10月の州議会選を前に、北米は英語を話す人がほとんどで、フランス語話者は弱い立場に置かれていると危機感を示し、ルゴー氏率いるケベック未来連合(CAQ)はフランス語を擁護する方針を固めた。

州政府は新たなフランス語担当相を発表するとともに、新規の移民に7カ月目から健康関連以外のほとんどの公的サービスをフランス語で受けるよう義務付けることなどを盛り込んだ「フランス語使用強化法案」を可決した。

一方、企業経営者の一部はルゴー氏が進めるフランス語話者誘致策のせいで、熟練した技術を持つ移民がケベック州を敬遠するのではないかと危惧している。同州の求人倍率は国内で2番目に高い。

レストランや映画館などの事業を展開するモントリオールの起業家、ビンス・グーゾ氏にとって「喉から手が出るほど」欲しいのは食器を洗う労働者であって、どの言語を話すのかは関係ない。「アプリをダウンロードすれば、必要なら自分のスマートフォンがパンジャブ語だって翻訳する」と言う。

カナダ統計局の2021年第4・四半期のデータによると、国内の製造業の求人数は推定8万1000人で、その約4割をケベック州が占めた。21年のケベック州の域内総生産(GDP)に占める製造業の割合は12.6%と、セクター別でトップだ。

ケベック製造業・輸出業者協会(QME)のベロニク・プルー会長は「フランス語が重要でないと言っているわけではない。ただ、必要となる最高の人材や技能を誘致しようとするとき、フランス語は制約要因になる」と話した。

ケベック州の派遣労働へのシフトは、製造業の労働力不足に対する「応急処置」に過ぎず「生産ラインの閉鎖を考えている企業もある」という。

ケベック州労働・移民相のジャン・ブーレ氏は電子メールで、州政府は留学生を誘致し、優先度の高い分野の労働者を確保するための措置を採ってきたと説明した。新たな法律には、フランス語の習得を容易にするサービスも含まれるという。

ケベック州は新型コロナウイルスのパンデミックの影響で2020年に移民数が2万5225人に減少したが、22年には7万1000人以上の永住者を受け入れる予定だ。

ブーレ氏によると、CAQは18年に同州で政権を取った後、新規移民の定着を支援するため、新たな永住者の受け入れを意図的に抑えている。

政府のデータによると、カナダの新規永住者全体に占めるケベック州の割合は、12年の21.3%から昨年は約12.4%に低下した。

ケベック州は、新規の移民を他の地域に奪われるリスクも抱えている。カナダ統計局のデータによると、09年にケベック州が受け入れた移民の約16.3%が19年までに他の州へ移っており、この比率はオンタリオ州の約2倍だ。

<非現実的>

ケベック州は歴史的にカナダの移民先として人気が高い。しかし、永住権を取得する基準の変更や、取得までの長い待ち時間により、新規の移民の間でケベック州を希望する人が減るのではないかと、モントリオールを拠点とする移民専門弁護士、ロザリー・ブルーネルは指摘した。

ブーレ氏によると、19年に経済移民として承認された人のうち、フランス語話者の比率は56%だったが、21年は84%に増えた。

あるメーカーのトップは、政府は企業がフランス語を話す労働者を採用することを望んでいると明かした。

テクノサブのエリック・ボープル最高経営責任者(CEO)は「フランス語を話す熟練労働者を確保するのは理想的だが、必ずしも現実的ではない」と言う。地元の労働力が限られているため、必要な技能を持つ人材を中南米やフィリピンから期限付き労働者として数多く受け入れ、現場でフランス語を教えている。

エマニュエル・スエルテ・フェリペさんは18年にフィリピンから来て、期限付き労働者としてテクノサブで働いている。フランス語の力は仕事に十分なレベルだが、家族をケベックに呼び寄せたいため、永住権取得審査に合格するかどうかが心配だ。「ここにいたい。夢の仕事を見つけたのだから」

(Allison Lampert記者、Anna Mehler Paperny記者)

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