ニュース速報

ワールド

アングル:ウクライナ侵攻100日、「平時」装うプーチン露大統領

2022年06月03日(金)16時06分

 ロシアのウクライナ侵攻開始から6月3日で100日となるが、プーチン大統領は「戦争」を口にせず、平時であるかのような印象を振りまくことに専念している。2日、モスクワ郊外で代表撮影(2022年 ロイター)

[ロンドン 2日 ロイター] - ロシアのウクライナ侵攻開始から3日で100日となるが、プーチン大統領は「戦争」を口にせず、平時であるかのような印象を振りまくことに専念している。

今週、ウクライナ東部セベロドネツク市で自国軍が戦いを続けていた頃、プーチン氏は子だくさんの親たちをたたえる式を開き、ぎこちない雑談を繰り広げていた。この様子はテレビで放送された。

5月以来、プーチン氏が主にオンラインで会談した相手は、教育関係者、石油・運輸企業の幹部、森林火災対策責任者、10以上の国内地域の首長らだった。

安全保障会議を何度か開いたり、外国首脳と一連の電話会談を行うかたわら、全ロシア・アイスホッケーの「ナイトリーグ」のプレーヤー、指導者、観客らとビデオ会談する時間も持った。

こうして退屈なほど普段通りの行動を取って見せることは、政府の「物語」と整合性がとれている。ロシアは厄介な隣国を屈服させるための「特別軍事作戦」を行っているだけであって、戦争状態ではないというのが、政府の説明だ。

自国軍がウクライナでひどく苦戦し、2大都市で敗退し、何千人もの犠牲者を出している今、プーチン氏はストレスを一切表情に出さない。

2月24日の侵攻開始前、怒りをあらわにしてウクライナと西側諸国を非難していたのとは対照的に、現在は言葉遣いも抑制的だ。69歳のプーチン氏は穏やかな様子で、データと詳細な情報を完全に掌握しているように見える。

西側の制裁による影響は認めながらも、ロシア経済はより強くなり、自給力を備えることになると説明。一方の西側は、食費と燃料費の高騰というブーメランに苦しむだろう、と訴えかけている。

<西側の亀裂に期待>

しかし終わりが見えないまま戦争が長期化していくと、プーチン氏が平時を装うのは徐々に難しくなるだろう。

経済面では、ロシアは制裁の影響が深刻化して景気後退に向かっている。

軍事面では、ロシア軍はウクライナ東部では徐々に前進しているものの、米国とその同盟国はウクライナへの武器供与を強化している。

西側の専門家の見方では、ロシア軍の攻撃がぐらつくようなら、プーチン氏は枯渇した軍をてこ入れするために温存していた力のフル動員を宣言せざるを得なくなるかもしれない。

「そうなると100万人以上のロシア国民が動員されるだろう。当然ながら、ロシアが全面戦争に入っていることに気付いていなかった人々の目にも入る」と言うのは、長年にわたってプーチン氏を観察し、会ったこともあるオーストリアの学者、ゲアハルト・マンゴット氏だ。

そうした状況はロシア国民には受け入れ難いだろう。国民は政府に忠実な国営メディアの情報に頼り、ロシアの苦戦ぶりと被害の規模を知らないでいる。

ただマンゴット氏は、ロシアはまだその地点には達していないと指摘。プーチン氏は、西側に戦争疲れの兆しが生じているのを見て、ある程度意を強くしている可能性もあるという。

ウクライナを最も強力に支援する米国、英国、ポーランド、バルト諸国などの国々と、停戦を訴えるイタリア、フランス、ドイツなどのグループとの間には、亀裂が見え始めている。

「戦争が長引けば長引くほど、西側陣営内で対立と摩擦が増えるとプーチン氏は踏んでいる」とマンゴット氏は語った。

一方、ウクライナとの和平協議は数週間前に頓挫し、プーチン氏は外交的な出口を探る様子を一切見せていない。クライシス・グループの欧州・中央アジア・プログラムディレクター、オルガ・オリカー氏は「彼はいまだに、この問題に良い軍事的解決策があると考えている」と話す。

オリカー氏によると、プーチン氏はある時点で目標が達成できたとして勝利宣言をする選択肢を残している。同氏の言う目標は「ウクライナの非軍事化および非ナチ化」であり、「明確に定義されたことはなく、前々から少し馬鹿げた目標だったので、いつでも達成したと宣言することができる」という。

プーチン氏は1日、15人の子どもを持つ大家族の親らと40分間にわたってビデオで対面したが、「戦争」と「ウクライナ」という言葉は一度も口にしなかった。

一張羅を着込み、花と食事の飾られたテーブルに固くなって座る家族たち。プーチン氏はその一人一人に順番に声をかけ、自己紹介を求めた。同じ日、ウクライナ西部の都市リビウ中心部の広場には、ロシアの侵攻以降に亡くなったウクライナの子どもら243人を追悼するため、空っぽのスクールバス8台が到着した。

大家族と対談したプーチン氏の発言の中で、戦時中であることを感じさせる言葉に最も近かったのは、ウクライナ東部ドンバス地域の子ども達が「異常な状況」にあることへの言及だった。

ロシアは多くの問題を抱えているが、これまでも常にそうだったとプーチン氏。「ここでは普段と違うことは何一つ起こっていない」とビデオ対談を締めくくった。

(Mark Trevelyan記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット

ワールド

インドとパキスタン、停戦合意から一夜明け小康 トラ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中