ニュース速報

ワールド

アングル:「身内」で固めたバイデン外交チームに待ち受ける難題

2020年11月25日(水)12時44分

 米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領が23日に指名した2人は、その協調性、同盟国を支援する姿勢、外交を安全保障の第一のツールと考える冷静さで知られている。写真はデラウェア州ウィルミントンでビデオ会議を行うバイデン氏(2020年 ロイター/Joshua Roberts)

Matt Spetalnick and Arshad Mohammed

[ワシントン 23日 ロイター] - ライバルたちも含めた挙党体制かと言えば、答えはノーだ。米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領が23日に指名した2人、つまり国務長官のアントニー・ブリンケン氏、国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は、その協調性、同盟国を支援する姿勢、外交を安全保障の第一のツールと考える冷静さで知られている。

2人は政策の機微に通じていると評価されている。特にブリンケン氏の場合は、連邦政府の国家安全保障会議と上院外交委員会での長い経験によって鍛えられている。だが一部には、国家安全保障の表舞台に立つリーダーの器かどうか危ぶむ声もある。

エイブラハム・リンカーン、バラク・オバマ両大統領に顕著だったが、過去には、自身にとって最も手強い政敵さえ何人か取り込むような重量級の政権を構築した大統領もいた。それに比べてバイデン氏の選択には、これまで多年にわたり同氏と手を携え、ともに働いてきた元スタッフが顔を揃える。

ブリンケン氏、そして国務省出身でオバマ政権時代はバイデン氏の外交政策首席補佐官を務めたサリバン氏は、時として混乱を見せたドナルド・トランプ大統領による外交政策を転換していくうえで、どのような政策課題に直面するのか、いくつか見ていこう。

<中国>

バイデン政権の外交政策チームにとって主要課題となると予想されるのは中国である。折しも、米中両国政府の関係はここ数十年で最悪の状況に陥っている。

選挙期間中、トランプ氏は繰り返し、バイデン氏が勝利すれば中国が「米国を所有」するようになると警告してきたが、ブリンケン、サリバン両氏とも、バイデン政権になれば決して中国の思いどおりにはならない、と主張してきた。

トランプ大統領が、中国に対して強硬な貿易戦争を仕掛ける一方で、習近平国家主席には歯の浮くようなお世辞を進呈するなど、時として整合性に欠けるアプローチを示してきたのとは対照的に、2人がこれまで約束してきたのは、バイデン氏はもっと一貫性のある対中政策をとるだろう、ということだ。

また2人は、同盟諸国からの支援を促し、中国政府に対し、貿易、香港、南シナ海、新型コロナウイルス、人権といった問題に関する国際規範を尊重するようプレッシャーをかけていくものと予想される。

ブリンケン氏は9月、「外国による不正行為が米国の雇用を脅かすことがあれば、(バイデン氏は)必ず一貫して積極的に米国の通商関連法を発動させるだろう」と述べている。

とはいえ、バイデン氏の外交政策チームは、単にオバマ政権時代に回帰するだけではないことを示さなければというプレッシャーを受けることになろう。オバマ政権によるアプローチについては、ルールに従って行動するよう中国政府を何とか説得するという甘い考えによるものだったという批判が一部に見られるからだ。

戦略国際問題研究所(CSIS)のボニー・グレーザー氏は、バイデン政権は中国政府との公式対話の泥沼にはまることのないよう注意するべきだと話す。「中国は結果よりもプロセスを重視することに長けている」とグレーザー氏は言う。

<ロシア>

ブリンケン、サリバン両氏は、対ロシア政策ではこれまでより厳しいアプローチを立案すると予想される。バイデン氏が選挙前に「独裁者たちに擦り寄る時代は終ったことを敵対国に明確に示す」と述べたとき、彼が特にウラジーミル・プーチン大統領を念頭に置いていたことはほぼ確実である。

ブリンケン氏は、ロシアがクリミア半島をウクライナから併合したとき、オバマ政権のもとで働いていた。同氏は9月、バイデン氏はロシア政府による侵略があれば、制裁措置も含めて対抗していく考えであると述べている。また同氏はCBSによるインタビューのなかで、「我が国が抱える難題につけ込もうとしている」としてロシアを非難している。

バイデン氏は、米ロ間に唯一残された戦略核兵器削減条約(新START)の延長を望んでいる。延長されなければ、1月20日のバイデン氏就任から16日後に同条約は失効し、戦略核弾頭及びそれを運搬する爆撃機・ミサイルの配備に関する制約はすべて撤廃されてしまう。

<イラン>

最終的に2015年のイラン核合意へと至る秘密交渉の際、中心的な役割を担っていたのがサリバン氏である。同氏もブリンケン氏も、イラン政府との外交交渉に戻ることを呼びかけている。

2018年にトランプ大統領が離脱したイラン核合意は、イランによる核兵器開発を阻止するため、経済制裁の緩和と引き替えに同国の核関連計画を制限しようという趣旨である。

トランプ大統領はこの合意から離脱して米国による制裁を復活させるとともに、さらに多くの制裁を科したが、これまでのところ、イランに再交渉を強いる取り組みとしては失敗に終わっている。

バイデン氏は、まずイラン側が厳格な順守を再開すれば合意に復帰すると述べている。バイデン氏は「核合意を強化・延長するとともに、不安定化を招くイランによるその他の活動に対しても、より効果的に対応していく」ため、同盟諸国との協力を進めることになろう。

だが、当初のイラン核合意に復帰するといっても単純な話ではなく、イランがさらなる譲歩を求めてくることはほぼ確実である。

<北朝鮮>

ブリンケン氏は、史上初の米朝首脳会談によっても北朝鮮による核兵器開発の断念に向けた進捗につながらず、米国がこれまで以上の危険にさらされている状況に変わりないとして、北朝鮮の指導者である金正恩氏へのトランプ政権の対応を批判している。

ブリンケン氏は9月、CBSニュースに対し、米朝首脳会談について「その代償は何だったか。何も得られないより、さらにひどい」と述べた。

とはいえ、ブリンケン氏をはじめとするバイデン政権のチームが北朝鮮にどのように対応していくかは、さらに不透明である。ブリンケン氏は、同盟諸国ともっと密接に協力し、中国が北朝鮮に対し交渉のテーブルにつくよう「正真正銘の経済的な圧力」をかけることを求めていくと約束している。

<アフガニスタン>

バイデン氏の国家安全保障担当チームはアフガニスタンに関して厳しい判断を迫られることになる。トランプ大統領は先週、アフガニスタン駐留米軍部隊を1月中旬までに4500人から2500人に削減することを決定した。これによってアフガニスタン政府・米国政府が政権と対立するタリバンに対応する能力は減衰することになる。

アフガニスタン政府・タリバン間の和平合意を進展させようというトランプ政権の取組みは棚上げとなっており、米国が手を引くにつれて、タリバン側には妥協するインセンティブがほとんど残っておらず、武力紛争は激化している。

大きな問題となるのは、3月に米国・タリバン間で成立した合意に基づき、バイデン政権が2021年5月までにすべての米軍部隊を撤退させるかどうか、である。だが、武力攻撃の抑制、アルカイダその他米国の国益にとって脅威となるイスラム主義グループとの絶縁というタリバン側の約束は実現していないままなのだ。

ブリンケン氏は「明確な戦略がないまま」期限を設けずにアフガニスタンやシリアのような地域に米軍を派遣しておくことは「止めるべきだし、(バイデン政権のもとで)止めることになる」と述べている。だがそうした決定は、現地状況に関する軍事的な評価をもとに同盟諸国との協議を経て下されるものであり、米軍のプレゼンスが維持される可能性は残っている。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米のイラン攻撃、ハメネイ師体制強化するだけ=メドベ

ビジネス

JAL、AGPへの豪ファンドTOBに応募する予定は

ワールド

フォルドゥ核施設に深刻な被害か、衛星画像 確認は困

ビジネス

ルネサス、米ウルフスピード関連で約2500億円の損
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中