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焦点:ハリス氏は「強敵」、トランプ氏が手こずりそうな理由

2020年08月14日(金)13時34分

8月12日、米大統領選の民主党大統領候補となるバイデン前副大統領が、副大統領候補に選んだハリス上院議員(写真)。彼女は、敵陣営への攻撃材料を探しあぐねていたトランプ大統領陣営にとって新たな標的だ。デラウェア州ウィルミントンで撮影(2020年 ロイター/Carlos Barria)

[ワシントン 12日 ロイター] - 米大統領選の民主党大統領候補となるバイデン前副大統領が、副大統領候補に選んだハリス上院議員。彼女は、敵陣営への攻撃材料を探しあぐねていたトランプ大統領陣営にとって新たな標的だ。しかしハリス氏を攻撃すれば、それ自体にリスクと試練がついて回るだろう。

バイデン氏が副大統領候補を発表した数分後、トランプ氏は「不快」、「ひどい」、「無礼」などの言葉でハリス氏を批判した。ハリス氏は穏健派のバイデン氏を左派に引っ張る極左だ、というレッテル貼りにトランプ氏陣営は励んでいる。

しかし今のところ、米国民がハリス氏を過激な思想の持ち主と見ている兆候は乏しい。ハリス氏はカリフォルニア州で検事や司法長官を務め、民主党主流派との太いパイプを持つ。

実際、ロイター/イプソスが10─11日、ハリス氏選定の発表直前に実施した調査によると、共和党支持者の間では、バイデン氏に好印象を持つと答えた割合が13%にとどまったのに対し、ハリス氏に対しては21%だった。

トランプ氏には、もっと大きな心配事がある。主要政党で黒人女性初の副大統領候補となったハリス氏に対し、性差別主義、あるいは人種差別主義的な攻撃を展開すれば、郊外に住む女性有権者層の支持を得ようとする陣営の努力に逆行しかねないのだ。両陣営の参謀とも、トランプ氏が再選を果たすには、この層からの支持奪還が必須との見方で一致している。

トランプ氏は2016年の大統領選で、女性初の大統領候補で性差別的な批評にさらされた民主党のヒラリー・クリントン氏に対しても、「不快」という表現を使い、「女を武器に」していると攻撃した。民主党の女性有力者らは今回もトランプ氏がまたこうした攻撃を繰り返すと既に警戒している。

当時、クリントン氏の最側近だったニーラ・タンデン氏は「トランプ氏がハリス氏に女性憎悪的な言い回しを使いたいなら、大きな危険を冒すことになるだろう。郊外の女性層(の支持獲得という点)に関して、彼は少しのミスも許されない状況にある」と指摘した。

直近のロイター/イプソス調査では、女性の支持率でバイデン氏はトランプ氏を10%ポイント、郊外に住む女性では6%ポイント、それぞれリードしている。有権者全体の支持率は、バイデン氏がトランプ氏を11%ポイント上回る。

共和党の世論調査員、サラ・ロングウェル氏の見方では、ハリス氏が郊外の女性に信用されていない、あるいは嫌われている証拠をトランプ陣営が得られない限り、トランプ氏の側近は同氏に、お得意の激しく大げさな調子でのハリス氏たたきを慎むよう望みそうだ。

「しかし彼女たちがハリス氏を嫌ったり、不信感を抱いたりしている証拠は今のところない。私の推測では、ハリス氏は実際、郊外の女性にかなり受けが良さそうだ」

<弱点探し>

新型コロナウイルス禍、景気悪化、人種差別と警察の暴行に対する全米的な抗議活動が巻き起こる中、トランプ氏の人気は大きく後退した。

巻き返しのため、トランプ氏陣営はハリス氏が副大統領候補に指名されるやいなや一斉射撃を開始した。

陣営は記者会見を開き、ハリス氏自身が大統領選に出馬していた際、大胆な温暖化対策構想「グリーン・ニューディール」や国民皆保険制度「メディケア・フォー・オール」など、進歩主義的な政策を支持していたことをたたいた。バイデン氏はいずれの案も支持していない。

ハリス氏は選挙戦中、自身の政策をもっと中道寄りにするため、いくつかの政策姿勢を転換した。しかしトランプ氏陣営は、ハリス氏に頑迷な左派候補のらく印を押す姿勢を明確にしている。77歳のバイデン氏が任期中にすぐに退任し、代わってハリス氏が後任に就く可能性も指摘していく構えだ。

トランプ氏陣営はまた、アフリカ系米国人コミュニティーが、刑事司法におけるハリス氏の経歴を批判していることに脚光を当てたい意向だ。民主党の最も忠実な支持層であるアフリカ系有権者とハリス氏との分断を狙う。

しかし内々には、トランプ氏の側近らもハリス氏が強敵になることを認めている。あるホワイトハウス高官は、ペンス副大統領が10月の討論会で厳しい論戦を強いられるだろうと述べた。

トランプ氏は記者会見で、18年に連邦最高裁判事に指名されたブレット・カバノー氏の上院指名承認公聴会で、ハリス氏が激しい追及を繰り広げたことをあげつらった。

ただ実際のところ、バイデン・ハリス陣営にとって目下の課題は、進歩主義者からの突き上げを抑えることだ。こうした層は、バイデン氏にもっとあからさまな進歩主義候補を選ぶよう求めていた。

ハリス氏は自身の大統領選の選挙運動中、過去に検事として警察などの法の執行を過度に支持したとして進歩主義者から激しく批判された。以来、ハリス氏は進歩主義的な刑事司法改革への支持を公言するようになった。

警察改革でハリス氏と協力してきた活動団体「カラー・オブ・チェンジ」の幹部、ラシャド・ロビンソン氏は「(進歩主義者からの)疑問に、彼女は正面から答えなければならない。自身の変遷についての疑問に答える必要がある。自らが抱える課題について語り、自身の立ち位置が今どう変わったのかについて語る必要がある」と、進歩主義者らを味方に引き入れる努力の必要を指摘した。

(James Oliphant記者)

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