ニュース速報

ワールド

アングル:独与党党首が突如退任、ポストメルケル3つのシナリオ

2020年02月15日(土)08時42分

ドイツのメルケル首相(写真)の後継候補として最有力視されていた与党・キリスト教民主同盟(CDU)のクランプカレンバウアー党首が10日、突如退任を表明した。ベルリンで11日撮影(2020年 ロイター/Michele Tantussi)

[ベルリン 11日 ロイター] - ドイツのメルケル首相の後継候補として最有力視されていた与党・キリスト教民主同盟(CDU)のクランプカレンバウアー党首が10日、突如退任を表明した。これによりメルケル氏が描いた「円滑な政権禅譲」プランは水泡に帰すとともに、総選挙が早まる確率も高まっている。

CDUは今後数カ月以内に、同党を率いて来年10月までに実施されることになっている次期総選挙の首相候補となる人物を選ぶ。選出された人物が恐らく、CDU党首と首相を兼ねることになる。

事態を予測するのは時期尚早だが、以下に想定される3通りのシナリオを示した。

(1)メルケル氏が首相退陣、半年以内に総選挙へ

15年間近くドイツ首相の座にあって同国の政治安定の要となってきたメルケル氏は、2018年にCDU党首をクランプカレンバウアー氏に託した一方、首相の職務は21年までの任期を全うするとしている。

ただクランプカレンバウアー氏の党首退任表明で、メルケル氏の政敵がCDUの次期首相候補となる可能性が浮上。そのためメルケル氏は早期退陣に追い込まれるかもしれず、そうなると連立相手の社会民主党(SPD)の離脱を引き起こし、それがきっかけで、いわゆる解散総選挙のような事態になる可能性もある。

事態を早期に収拾させ、CDU党首と首相に同一人物を就任させるべきだとの声が上がっていることは、メルケル氏にとっては好ましくない。

CDU党首、そしてキリスト教社会同盟(CSU)との保守連合を背景に次期首相を目指す何人かの有力候補は、既に動きだしつつある。

CSUのゼーダー党首を含めた保守連合幹部の間からは、CDUは早期に党首を決めるべきで、今年12月の党大会まで選出時期を先送りすれば支持率が低下しかねないとの意見が出ている。

実際、チューリンゲン州では地元のCDUが先週、極右とは手を組まないという第2次大戦後の党是に反して、極右政党「ドイツのための選択肢」と協力して州首相を選出した形になったことで、同州でのCDUの支持率は9%ポイント近くも急落。全国的にも支持率は下がり、クランプカレンバウアー氏の退任表明を招いた。

こうした支持率低下懸念から、CDUは今年の夏場ないし秋口までに新しい党首と次期首相候補を決めるかもしれない。長年メルケル氏と犬猿の仲のフレデリック・メルツ氏などが選ばれれば、メルケル氏は首相を続けられなくなる可能性がある。またメルツ氏やイェンス・シュパーン氏など党内右派が総選挙前に次期首相候補となった場合は、SPDが政権協力を拒み、連立が崩壊して総選挙に突入する可能性がある。

(2)EU議長国期間中はメルケル氏続投、選挙は来年初め

だが安定を愛するドイツ国民は緩やかな変化を好み、ドイツが欧州連合(EU)議長国を努める今年後半中の選挙は避けたがる。

多くの保守連合やSPDの議員も、英国とのEU離脱後の交渉や対中関係などで、メルケル氏がEUの主導的役割を果たしてほしいと考えている。同氏も、自らの交渉能力や、ユーロ圏債務危機から2015年の難民大量流入に至るさまざまな問題で培った経験を生かせるEU議長職が楽しみだと明言してきた。これがうまくいけば、総選挙前に、保守連合は政権を担うに足ると証明できる。

さらに、メルケル氏の人気がなお衰えていないという事実がある。各種世論調査では、多くの有権者がメルケル氏を外国でのいわゆる大統領級の存在とみなし、任期満了まで首相であってほしいと答えた。

こうした事情は、メルケル氏が少なくとも今年末まで続投する可能性を高める。そうなると、CDUの次期首相候補も今年末が過ぎたあたりの総選挙で、支持率回復の恩恵に浴することができるかもしれない。

(3)メルケル氏任期全うで来年秋に総選挙

CDUが党首を素早く選んだとしても、選出された人物次第ではメルケル氏が、レームダックになりながらも首相の任期を全うできるかもしれない。

例えばノルトライン・ウェストファーレン州のラシェット州首相はそうした候補者の1人。中道路線なので恐らくSPDも受け入れやすいだろう。

保守連合がCSUのゼーダー党首を首相後継に選定する場合も、メルケル氏の任期全うはあり得る。もっともゼーダー氏を強力な候補と見る向きが多いとはいえ、CSU党首がドイツの首相になった例はいまだかつてない。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中