ニュース速報

ワールド

焦点:英経済に「相当厳しい」新ブレグジット協定案

2019年10月19日(土)07時51分

10月17日、ジョンソン英首相(写真)が欧州連合(EU)と合意した英EU離脱(ブレグジット)協定が発効すれば、メイ前首相の案に比べてEUとの経済障壁は高まり、国は貧しくなりそうだ。ブリュッセルで撮影(2019年 ロイター/Toby Melville)

[ロンドン 17日 ロイター] - ジョンソン英首相が17日に欧州連合(EU)と合意した英EU離脱(ブレグジット)協定が発効すれば、メイ前首相の案に比べてEUとの経済障壁は高まり、国は貧しくなりそうだ。

合意した協定案を実行に移すには19日の英議会採決で承認を得る必要がある。ジャナス・ヘンダーソンを運用するポール・オコナー氏は「ジョンソン首相が(議会承認を得て)合意を最終締結することができたとしても、相当厳しいブレグジットになるという認識が広がり、投資家の歓迎ムードはすぐに冷え込むかもしれない」と言う。

英財務省と大半の外部エコノミストの試算によると、EUとの貿易障壁が高まれば、EUに残留した場合に比べて英経済の成長率は低くなり、障壁が高ければ高いほど悪影響は大きくなる見通しだ。

先週示されたジョンソン氏の案に基づき調査会社「変わる欧州の中のUK」が試算したところ、EU残留の場合に比べ英国民1人当たりの所得は中期的に6%、年間2000ポンド(2570ドル)相当減少する。

メイ前首相案の場合には所得減少率は5%未満にとどまり、「合意なき離脱」になると8%超減少する。

これに対しジャビド英財務相は17日、ジョンソン氏とEUの合意によって企業の設備投資を阻んでいた不透明感が晴れるのは「自明の理だ」と反論した。

<金融市場>

金融市場は、「合意なき離脱」のリスクが低下したとして17日の合意を歓迎した。

しかしUBSウェルス・マネジメントのエコノミスト、ディーン・ターナー氏は、これで英国の成長率は一時的に押し上げられるかもしれないが、長期的な通商環境が不透明過ぎて設備投資の回復には結びつかないとみる。「まだ祝う気にはなれない。経済活動は少し持ち直しそうだが、英経済が低成長トレンドから抜け出せるほど有意な回復ではないだろう」

シンクタンク、欧州改革センターの推計では、2016年の国民投票でEU残留を選んでいた場合に比べ、英国経済の規模は既に約3%小さくなっている。

ジョンソン氏が合意した協定案はメイ氏がEUと合意した案と概ね同じだが、付随する「政治宣言」の内容が薄まったとアナリストは指摘する。

メイ氏の案では今後EUと結ぶ貿易協定について「可能な限り密接な」貿易関係を目指すとしているが、修正案では「野心的な」の一言に置き換えられた。

シンクタンク、インスティテュート・フォー・ガバメントのアレックス・ストジャノビッチ氏は「メイ氏の案であれば、単なる自由貿易協定(FTA)よりも柔らかい協定になっていただろう。現政権が望んでいるのはFTAだとみられ、様相はかなり異なる。英国とEUの間で、特にモノの貿易における規制障壁が残るということだ」と話す。

ホーガン・ラベルズの金融サービス分野専門弁護士、ラケル・ケント氏によると、当初の政治宣言案でも、英国はEU市場にアクセスするためにはEUの規制に縛られるはずだったが、修正案ではその点がよりあからさまになった。英規制当局は、EU離脱後は「ルールを受け入れる」のではなく「作る」立場に立ちたいとしているため、英国とEUの金融市場が分断される可能性が高まるという。

ストジャノビッチ氏は、英国は世界中の国々と二国間貿易協定を結ぶ自由を得るが、ブレグジットによって失われる経済活動を穴埋めすることはできないとみる。「英国がすべての国と協定を結ぶとしても、15年後に英国の国内総生産(GDP)を0.2%押し上げる程度だろう。大半のFTAはGDPにさほど寄与していない」

(David Milliken記者、Mark John記者)

*カテゴリーを追加して再送します。

(※原文記事など関連情報は画面右側にある「関連コンテンツ」メニューからご覧ください)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド、米通商代表と16日にニューデリーで貿易交渉

ビジネス

コアウィーブ、売れ残りクラウド容量をエヌビディアが

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破 AI
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中