ニュース速報

ワールド

焦点:中国の「バブル世代」、苦労知らずの若者が抱く楽観主義

2017年10月21日(土)10時21分

10月17日、民主化運動が弾圧された天安門事件以降に生まれ、空前の経済成長下でほとんどが一人っ子として育ち、近年で最も強力な指導者、習近平氏が権力に就く時に成人した──。彼らを、中国の「バブル世代」と呼ぼう。写真は英語講師のFu Shiweiさん。武漢で9月撮影(2017年 ロイター/John Ruwitch)

John Ruwitch and Anita Li

[武漢 17日 ロイター] - 民主化運動が弾圧された天安門事件以降に生まれ、空前の経済成長下でほとんどが一人っ子として育ち、近年で最も強力な指導者、習近平氏が権力に就く時に成人した──。彼らを、中国の「バブル世代」と呼ぼう。

繁栄と平和の中で育った世代であり、彼らの祖父母や親の世代が味わった「吃苦(苦しみに耐える)」を体験することなくここまできた。

習氏が任期5年の国家主席として再任されるにあたり、ロイターは「バブル世代」の若者をより深く知ろうと、習氏が国家主席になった5年前の2012年に大学を卒業して就職した男女10人に取材した。

彼ら「2012年組」は、1990年代にこの国に生まれた1億9000万人の若者のほんの一部だ。しかし「習近平の中国」と、その遺産を引き継ぐ世代の内情について、重要な洞察を与えてくれた。

彼らは北京、上海、成都、武漢、そして湖北省蒲団などに住み、家庭環境は多様だ。彼らの親も、工場の元所有者や、飲食店経営者、医者、建設作業員、役場職員や、学校の事務員と多岐にわたる。

彼ら10人は、北京にある中国有数の経済系大学、武漢にある地方大学、成都にある技術大のいずれかを卒業しており、限られた人数しか高等教育を受けることのできない中国では、恵まれているといえる。

それぞれの経験は時に大きく異なるが、共通項も多い。

楽観的でオープンな考え方を持ち、思ったまま行動する傾向がある一方で、祖先や家族に対する義務も重要だと考えている。独身者の一部が結婚のプレッシャーを感じている一方で、伝統的な生き方を拒否する人もいる。

「この世代の良いところは、人生の方向性が多様なことだと思う」と、 27歳のWu Qiongさんは言う。Wuさんは、武漢の女性保険営業員と幼稚園の園長の娘だ。「本当に、皆が同じように生きるより、自分の人生をどう生きたいかを知っている」

彼らは、旅と経験を渇望しており、おおむね恵まれた環境で育った。衣食面で必要なものはほとんど手に入ったし、任天堂の「ゲームボーイ」やバケーションなど、必要以上のものを手にすることもあった。

毎年続く異例の経済成長に慣れきっており、痛みを伴う減速など想像もできない。彼らの世界においては、不動産価格とは上昇するもので、成功を望む若い世代にとって「もろ刃の剣」となっている。

右肩上がりは、当たり前のことだ。

「世界は良くなる一方だと思う」と、成都に住む28歳の個人会計士Qin Lijuanさんは言う。「もし経済危機に直面しても、安全な計画設計があれば、人生に心配することはない」

「2012年組」は、多くの中国人と同様、政治には無関心な傾向がある。これは、記者の前でセンシティブな話題に本能的に慎重になった可能性もあるが、本当に無頓着なのかもしれない。

「自分の仕事には関係ないので、政治はどうでもいい」と、成都のインテリアデザイナーZheng Yueさん(27)は言う。「それに、政治的な問題は私には解決できない。強い関心があったとしても、役に立たない。何も変えられないのだから」

ネット検閲など、政治が日常生活に入り込む場合には、彼らはいつも迂回路をみつけ、好きなテレビ番組を見たり、関心のあるニュース記事を入手したりしている。

<バブルの楽観>

習主席は、巨大な社会・経済課題に直面しており、政府支配の縮小ではなく、拡大が国にとって必要だとの考えを明確にしている。

だがもし、物事が思わぬ方向に逸れたり、中国の「物語」が変容したり、多くのエコノミストが不可避と考えている経済減速が起きたらどうなるのか。大きな壁にぶつかったら、何が起きるのだろうか。

「若い中国人は、1950代や60年代のアメリカの若者と同様に、乗り越えるのがほとんど不可能なジェネレーションギャップと、巨大な楽観主義を抱えているようだ」と、北京大学・光華管理学院のマイケル・ペティス教授は言う。

だが若者は、親世代からのアドバイスや経験にもかかわわらず、将来のショックに対する心構えができていないだろう、と付け加えた。

Wuさんにそう告げてみた。上海から内陸に700キロ離れた湖北省の省都武漢で生まれ育った彼女は、「2012年組」の象徴的な面を多く備えている。

思ったことをはっきり口にする性格で明るい彼女は、大学卒業後、英語の学士号だけでは自分の目標実現に不十分だと感じ、大学院で会計の修士号を取得。今は、外資銀行の国際決済部門で働いている。

彼女自身はまだ不動産を購入していないが、最近母親に、開発中の「ケンブリッジ・シティ」にあるアパートを貯金で購入するよう説得した。アパートは建設中の地下鉄駅の隣にあり、数年で転売する計画だ。

「住宅価格の上昇は、銀行の定期預金金利よりもずっと大きい」と、Wuさんは言う。「値下がりすることはないし」

Wuさんは、雇用の安定についても心配していないようだ。

「自分の人生では、将来のことは全く何も心配していない。変化を恐れていない」と、彼女は言う。「もし、大きな経済危機が起きて、金融セクターが不況になれば、私は英語の先生でもやる」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=上昇、ナスダック最高値 CPIに注目

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、PPIはインフレ高止まりを

ビジネス

米アマゾンの稼ぎ頭AWSトップが退任へ

ビジネス

ソニー、米パラマウント買収を「再考」か=報道
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中