ニュース速報
ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果

2025年11月01日(土)08時44分

 10月30日、 中国と米国が制裁やその報復として打ち出した措置の一部を1年停止することで合意し、今年ずっと慎重だった外国人投資家にとって、中国市場に対する投資を妨げていた大きな要因の一つが取り除かれた形となった。写真は30日、釜山で言葉を交わすトランプ米大統領と中国の習近平国家主席(2025年 ロイター/Evelyn Hockstein)

Rae Wee Jiaxing Li

[シンガポール/香港 30日 ロイター] - 中国と米国が制裁やその報復として打ち出した措置の一部を1年停止することで合意し、今年ずっと慎重だった外国人投資家にとって、中国市場に対する投資を妨げていた大きな要因の一つが取り除かれた形となった。中国株は2019年以来の年間上昇率を示しており、他の主要市場を上回っているのだ。

外国人資金運用担当者はこれまでデフレ圧力や個人消費の低迷、米中間の貿易摩擦を懸念して、慎重で選別的にしか中国株の上昇相場に参加していなかった。

30日に発表された中国とトランプ米大統領の間の合意は、こうした懸念の一部をある程度和らげる効果がある。

今回の1年間の「休戦」により、中国に対する輸入関税を引き下げられ、中国のレアアース輸出規制の一部を撤廃し、中国企業が米国の技術を一部利用できるようになる。

金融市場は、合意の詳細には心を動かされていない。アナリストたちは休戦の最大の成果は協力の約束だと指摘している。

「今回の貿易合意で何か劇的に変わると思わないが、中国への海外投資を促す方向に歩みを進める一助になる」と、ニューヨークに拠点を置くマン・グループのチーフ・マーケット・ストラテジストのクリスティーナ・フーパー氏は述べた。

政策対応や中国の人工知能(AI)分野への進出に後押しされて、上海と深圳の株式市場に上場する有力企業300銘柄で構成する代表的な中国株指数「CSI300」は今年20%上昇した。より投資しやすい香港のハンセン指数(HSI)は31%上昇と世界で最もパフォーマンスが良好な株価指数の1つで、ナスダックの23%を上回っている。

しかし、外国投資資金は慎重な振る舞いを見せており、AIや中国の自給自足政策に関連するセクターにとどまり、幅広い投資ポジションは避けている。LSEGリッパーのデータによると、外国人投資家は今年これまでに中国株に特化したオフショアファンドから39億ドルを引き揚げた。

中国の経済規模は世界国内総生産(GDP)の5分の1を占めるにもかかわらず、外国人投資家の保有比率は低い。金融サービス企業モーニングスターのデータによると、世界の大手ファンドが9月末時点で保有する中国投資ポジションは平均して1.43%だ。

香港の資産運用会社KGIのカッソン・リョン最高投資責任者は、米中関係の緊張緩和の兆しを前向きに見ている。「今日の相場が下げたので中国株の保有ポジションを引き続き増やす」とリョン氏は述べた。しかし、それは貿易協議というよりも、中国経済の回復を当て込んでいるという。

<競争と協力>

投資家にとっては米中が激しく競争しながら一部で協力してさえすれば、表面上は投資機会が存在する。

「両国ともに自国のサプライチェーン(供給網)の安全保障を強化しようという意識がまだあり、こうした事情がさまざまなセクターの国内企業にとってビジネスチャンスにつながる」と上海に拠点を置くJPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、チャオピン・ジュー氏は述べた。

BNPパリバやゴールドマン・サックスのアナリストは、中国株を押し上げる強力な国内要因があると予測している。

ゴールドマン・サックスは先週公表した報告書で政策、成長、資産価値、資金フローといった要因が中国本土と香港の株価指数を2027年末までに約30%押し上げると見込んだ。「米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和とドル安が重なって、世界のファンドが中国投資を再検討し、中国株を一貫してアンダーウェイトとしていた評価を是正する可能性があるだろう」と述べた。

それでも、誰も貿易紛争の終結を宣言できる状況になっておらず、投資家は引き続き慎重さが求められる。

「投資家はこの不安定な均衡がどれだけ続くのかについてまだ懐疑的なため、楽観的な見方があまり織り込まれていない」とシンガポールに拠点を置くスタンダードチャータード銀行の外国為替市場ストラテジスト、デベシュ・ディヴヤ氏は述べた。

不確実性は減退したが、企業や多国籍企業が事業拡大や投資を検討するのは依然として非常に難しいという。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中