ニュース速報

ビジネス

アングル:生成AIで変わるネット広告、クライアントに懸念の声

2023年06月09日(金)18時35分

 6月8日、マイクロソフトとグーグルが始めた生成人工知能(AI)と広告を融合させる試みに対し、広告主であるクライアントにはこれを拒否する権利が与えられていない。複数の広告主によると、ブランド企業の中から不満の声が出ており、スポンサー全体に反発が広がりかねない状況だ。5月4日撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)

[8日 ロイター] - マイクロソフトとグーグルが始めた生成人工知能(AI)と広告を融合させる試みに対し、広告主であるクライアントにはこれを拒否する権利が与えられていない。複数の広告主によると、ブランド企業の中から不満の声が出ており、スポンサー全体に反発が広がりかねない状況だ。

両社は今、生成AIを駆使して検索エンジンを刷新し、どんな質問にも十分な回答を作成できる仕組みを構築しようとしている。検索結果に連動した広告を通じて消費者に訴求する従来の仕組みが一変する可能性がある。

マイクロソフトは、2月からユーザーへの公開を開始したAI搭載の検索エンジン「Bing(ビング)」で、一部の検索連動型広告をAIの回答結果に移行させる実験を進めていると明らかにした。

グーグルも、広告担当幹部のジェリー・ディスクラー氏が5月のインタビューで、既存の検索連動型広告をAIの回答内容に配置する実験に乗り出す考えを示した。ただグーグルによると、現時点では広告主にこの実験を拒否する権利はない。

両社とも、生成AIの機能を利用した広告の実験はまだ初期の段階であり、広告主と積極的に協力し、彼らに意見を求めているとしている。

しかし、広告主の間では、自分たちの予算がごく限られたユーザーしか使わない機能の強化に当てられいるとの警戒感が浮上しつつある。広告主は一般的に掲載場所を自ら決めたいし、不適切なコンテンツの隣に広告が出現するのではないかと心配にもなる。

これに対しマイクロソフトとグーグルは、不適切なコンテンツに広告が載るのを阻止するためのキーワードのリストといった既存の検索エンジンに備わっている機能は、AIの回答結果にも適用すると強調している。

<ブラックボックス>

自動車保険大手ガイコやコロナビールなどの企業と仕事をしてきた広告代理店ホライゾン・メディア幹部のジェーソン・リー氏は、広告主にとって同意なしに新たな広告の実験が行われるというのは懸念すべき慣行だと指摘する。

事情に詳しいある広告主によると、幾つかの大口広告主はマイクロソフトのやり方に対抗する形で一時的に出稿費を同社から引き揚げ、ウェルズ・ファーゴは今もマイクロソフト向け予算の削減措置を続けているという。

マイクロソフトのグローバルパートナー・リテールメディア担当バイスプレジデント、Lynne Kjolso氏はロイターとのインタビューで、広告主に余計な手間をかけさせず、できるだけ「継ぎ目のない」形の新たなビングの広告の仕組みを導入していくと語り、ビングの対話型AIにホテルの広告を流し始めるとともに、今後不動産など他の業界の広告も掲載する作業をしていると付け加えた。

巨大プラットフォーム企業が広告主に対し、AIを使ってより大きな成果が得られるとするサービスを提示しながら、広告主側の裁量を制限する流れは強まっている。

マーケティング代理店の幹部によると、グーグルがAIで自動的に最適な掲載場所を決める「パフォーマンス・マックス」と呼ばれるツールは、そのアルゴリズムのモデルが公開されていないので詳しいことが分からない「ブラックボックス」になっている、というのが多くの広告業界関係者の見方だ。

マイクロソフトに関しても、どんな検索ワードがきっかけでブランド企業の広告を生成AIの実験に提供されるのか、あるいは新しい広告の仕組みは従来の検索連動広告に比べてどの程度効果が高いのか、といった部分の報告がなされていない、と3人の広告主は指摘する。

そうした懸念にマイクロソフトも対応はしているが、いつになればより透明性の高い報告が出てくるのか明示しているわけではない。

ただKjolso氏は、広告代理店から透明性を巡る報告を要請されていると認め、マイクロソフトの製品チームがこの問題に最優先で取り組んでいると説明。「われわれは広告主にどのような追加的な権限を提供できるか間違いなく検討を続けている」と強調した。

偽情報や「幻覚(学習したデータからは決して正当化できない回答を堂々と行う現象)」を含むAIの回答結果に広告が流れるのをどのように防ぐべきかとの問題も提起されている。

Kjolso氏は、ビングのウェブ情報が大規模言語モデルの「土台となる」メカニズムとして機能することが可能で、幻覚発生のリスクを実際に減らしていると主張した。

(Sheila Dang記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、最優遇貸出金利据え置き 10カ月連続

ビジネス

エネ価格高騰、長期化ならインフレ加速・成長鈍化リス

ワールド

トランプ氏、イスラエルにガス田攻撃停止を要請 地上

ワールド

日米、重要鉱物の供給網強化に行動計画 価格下限の導
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 5
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 6
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 9
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 10
    トランプ暴走の余波で加熱するW杯「ボイコット論」..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中