ニュース速報

ビジネス

焦点:苦境の1年だった新興国市場、戻り期待の強気派復活

2022年11月26日(土)08時07分

 今年幾つかの資産価格が記録的な落ち込みとなった新興国市場に、戻りが期待できる局面になったと考える強気派が帰ってきた。写真は2016年1月、ブラジル・サンパウロの証券取引所で撮影(2022年 ロイター/Paulo Whitaker)

[ロンドン 23日 ロイター] - 今年幾つかの資産価格が記録的な落ち込みとなった新興国市場に、戻りが期待できる局面になったと考える強気派が帰ってきた。

世界的な金利の安定、中国が新型コロナウイルスに絡む規制を緩めること、核戦争が避けられることーーこうした前提条件付きながらも、各投資銀行による来年の新興国市場見通しは突然かなり明るい方向に修正されている。

例えばUBSは、今年マイナス15─25%だった新興国の株式と債券の総リターンは来年、プラス8─10%に転じると見込む。

モルガン・スタンレーは新興国の自国通貨建て債のリターンが17%近くに達すると予想。クレディ・スイスは特に外貨建て債を推奨し、バンク・オブ・アメリカの直近の機関投資家調査では逆張り取引の筆頭として「新興国(資産)買い持ち」が挙げられた。

T・ロウ・プライスの新興国ポートフォリオマネジャー、サミー・マーディ氏は、全体として想定リスク量を減らそうとする動きだと分析。自身もドミニカ共和国やコートジボワール、モロッコといった「安定的」とみなす新興国への投資をそろりと開始している。

マーディ氏は「(現状の)価格水準は逆張りを正当化するには十分魅力的だと感じている」と話した。

新興国市場にとって今年は、金利の急上昇、ウクライナの戦争、中国のゼロコロナ政策が全て壊滅的な打撃を与える要素となった。

この調子だと外貨建て債の年間総リターンは30年ぶりにマイナス20%を超え、史上初めて2年連続のマイナスリターンとなる。自国通貨建て債も今のマイナス15%が年末まで続けば過去最低。株式が今年より低調な値動きとなったケースは、2008年の世界金融危機や2000年のITバブル崩壊、1998年のアジア債務危機しか見当たらない。

ダブルラインのファンドマネジャー、ビル・キャンベル氏は「非常に厳しい1年だ。過去最悪ではないかもしれないが、最悪級の1つと言える」と振り返る。

ただこれまでの推移を見ると、苦難に陥った後には楽観論が登場してくる。

MSCI新興国株指数の場合は、いずれも55%下落したアジア債務危機と世界金融危機の翌年に当たる1999年と2009年にはそれぞれ64%と75%の反発を記録した。外貨建て債も世界金融危機で12%下がった後、次の年は30%上昇した。

キャンベル氏は足元の新興国資産についても相当な値ごろ感があるとした上で「今は闇雲に新興国市場に資金を振り向ける時期とは思わないが、妥当性のある(買うべき資産の)バスケット構築を開始することは可能だ」と主張した。

<壊れた時計>

ソシエテ・ジェネラルのアナリストチームは22日、インフレの落ち着きと先進国に景気後退(リセッション)が迫っていることが、新興国の自国通貨建て債のアウトパフォームを促す極めて有利な材料だとの見方を示した。

もっとも昨年のこの時期も、ほとんどの大手投資銀行が新興国資産の値上がり見通しを支持していたのは事実だ。当時ロシアのウクライナ侵攻、あるいは金利の急上昇を予想した向きはいない。新興国市場の動きを何年も追ってきた人たちに言わせれば、投資銀行が今の季節に新興国資産をもてはやすのは、ほぼ恒例行事になっている面もある。

バンク・オブ・アメリカの2019年12月の投資家調査では、ドル売り持ちが人気第2位の取引だった。JPモルガンとゴールドマン・サックスも新興国に強気だったし、モルガン・スタンレーは「新興国(資産)は全部買え」とのメッセージを発信していたほどだ。

ところがその後ドルは7%近く跳ね上がり、主な新興国の株式と債券の指数は下落。アバディーンの新興国市場ポートフォリオマネジャー、ビクター・サボ氏は「壊れた時計も、ある瞬間だけは正確なのかもしれない」と述べ、常に新興国に対して強気な人々を皮肉っている。

<期待は実現するか>

ウクライナの戦争に加え、インフレ高止まりや中国のロックダウン、債務増大と借り入れコスト上昇を受け、格付け会社はナイジェリア、ガーナ、ケニア、パキスタン、チュニジアなどでデフォルト(債務不履行)リスクが高まっていると警告する。

ノムラは、自社のモデルに基づいて新興7カ国で通貨危機が発生するリスクが高いと分析。新興国市場に強気姿勢のUBSでさえ、今年の新興国の外貨準備高は1997年以降で最も大幅に目減りするとみている。UBSが示した来年の世界経済成長率見通しは2.1%と、極端なショックに襲われた20年と09年を除けば、過去30年で最も低い。

それでもUBSは、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢が緩み、同時に世界的な在庫サイクルがピークを迎えて、アジアのテック企業が来年第2・四半期から持ち直せば、その時点で新興国資産がアウトパフォームするよりしっかりした土台が整うと力説する。

本当にこのように先行きに明るさが増せば、近年大規模な売りを続けてきた国際的な投資家が新興国資産の買いを再開する環境は確かに十分そろっている。

(Marc Jones記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国外為当局と年金基金、通貨安定と運用向上の両立目

ワールド

香港長官、中国の対日政策を支持 状況注視し適切に対

ワールド

マレーシア、16歳未満のSNS禁止を計画 来年から

ワールド

米政府効率化省「もう存在せず」と政権当局者、任期8
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中