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最近の為替変動「やや急」と日銀総裁、緩和継続は改めて強調
4月5日、日銀の黒田東彦総裁(写真)は、衆院・財務金融委員会で「通貨および金融の調節に関する報告書」(半期報告)について説明し、ロシアのウクライナ侵攻を受けて国際金融市場は不安定な動きが続いていると指摘した。日銀本店で2020年1月撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京 5日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は5日、衆院・財務金融委員会で、最近の為替変動は「やや急ではないかと思っている」と述べた。財務官として為替介入に携わった経験を踏まえ、為替介入の効果はなかなか一概に測れないと指摘。為替相場は経済・金融のファンダメンタルズを反映して安定して推移することが望ましいとの見解を改めて示した。
黒田総裁は、2%の物価目標を安定的・持続的に実現していない現状では、コロナ禍からの景気回復を金融緩和で支えていくことが適切だと強調。「いま金融を引き締めれば、景気がさらに悪化して雇用や賃金、企業収益に大きなマイナスの影響が出ると懸念している」と述べた。
<「円安は経済に全体としてプラス」と再び発言>
黒田総裁は同日、「通貨および金融の調節に関する報告書」(半期報告)について説明し、与野党の議員の質問に答えた。
為替相場については、ロシアによるウクライナ侵攻当初はリスク回避でドルと円がともに買われ、ドル/円は安定していたが、最近では米経済の堅調推移による米金利上昇や資源高に伴う輸入企業のドル買い増加でドル/円が上昇したとの見方が市場では多いと説明した。
岡本三成財務副大臣は、為替介入についてはコメントを差し控えるとした。為替相場の安定は非常に重要で、急速な変動は望ましくないと発言。「最近の円安の進行を含め、為替市場の動向や日本経済への影響をしっかりと緊張感を持って注視していく」と述べた。
黒田総裁は「円安が日本経済に全体としてプラスに作用しているという基本的な認識に変わりない」と話し、「為替円安の影響が業種や企業規模、経済主体によって不均一だということには十分留意が必要だ」と改めて述べた。
<政府の物価高対策に期待感>
日銀は半期報告で、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比はエネルギー価格の大幅上昇や価格転嫁の進展、携帯料金値下げの影響剥落で「プラス幅をはっきり拡大する」と予想。エネルギー価格が大幅に上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も進むもとで「基調的な物価上昇圧力は高まっていく」との考えを示した。
内田真一理事は今後のエネルギー価格の動向や政府の対応にもよるが、4月以降当分の間、消費者物価は2%程度の伸びとなる可能性が高いと述べた。
黒田総裁は、コストプッシュ型のインフレは家計の実質所得や企業収益の減少を通じて日本経済を下押しするため、安定的な2%目標の達成にはつながらないと強調。イールドカーブ・コントロール(YCC)を軸とした金融緩和を粘り強く続けることで、コストプッシュ型の物価上昇ではなく「企業収益や賃金の増加を伴う好循環のもとでの安定的な2%目標の実現を目指していく」と語った。
政府の物価高対策については、国民生活や企業収益への悪影響を緩和すると期待感を示した。
<指し値オペ「ラストリゾート」発言>
3月末にかけ、イールドカーブ全体に強い上昇圧力が掛かる中、日銀は連続指し値オペを初めて実施するなどして10年金利を許容上限0.25%で抑えてきた。
黒田総裁は、急激な長期金利の上昇には指し値オペも使って長期金利が安定推移するよう金融政策運営に当たると説明。2月の国会で、指し値オペは「ラストリゾート(最後の手段)」だと述べ、謙抑的な姿勢を示したが、自身の発言は「適切でなかったかもしれない」と話した。
昨年3月の政策点検を踏まえ、長期金利がプラス0.25%程度の上限を超えた状況が続けば「金融緩和効果が減殺され、設備投資などの下支え効果も弱まる」と述べた。
<出口戦略、市場との対話を強調>
金融緩和から正常化への出口戦略について、「具体的戦略を申し上げるのは時期尚早」とした。同時に「どのような出口戦略も金利の引き上げペースと膨張したバランスシートの調整の順序などが内容」と説明。日銀としても「出口に差し掛かれば政策委員会で議論してマーケットに伝える」と強調した。
一方、黒田総裁は金融緩和が本来退出すべき「ゾンビ企業を維持しているとの指摘は観念的にはあり得るが、現実的ではない」と述べた。
黒田総裁の大規模緩和のもと、安倍晋三政権以降の経済成長率が低下しているとの指摘に対しては、「生産年齢人口の大幅な減少が、潜在成長力に大きな影響を与えている」とし、「確かに経済全体の全要素生産性は上がっていないが、金融緩和が理由ではない」と反論した。
安倍政権以降の政府の財政再建について「政府もそれなりに努力してきたが財政健全化目標の達成を先送りしてきたのは事実」と述べ、今後も「政府が財政健全化目標を堅持し努力することが重要」と強調した。
安倍元首相は「日銀は政府の子会社」とし、市場経由で日銀が国債を買い入れることで、国債を増発しても「連結決算」では対外債務は増えないと主張している。黒田総裁は、政府は日銀に出資しているが議決権はないと述べ「日銀は政府の子会社ではない」と述べた。
(和田崇彦、竹本能文)
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