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「森友問題」深刻化でも株高、日経平均一時500円上昇の謎

2018年03月12日(月)18時08分

 3月12日、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する財務省決裁文書の書き換えが明らかになったにもかかわらず、日経平均は一時500円高と急上昇した。2月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 12日 ロイター] - 学校法人「森友学園」への国有地売却に関する財務省決裁文書の書き換えが明らかになったにもかかわらず、12日の日経平均<.N225>は一時500円高と急上昇した。北朝鮮情勢の緩和によるリスクオン圧力の方が上回ったためだが、海外投資家がこの問題を十分織り込んでいない面もあるという。このため安倍晋三内閣の要である麻生太郎副総理・財務相の辞任などに発展すれば、一転して円高・株安になる恐れも残されている。

<「終わった問題」とみている海外勢>

「海外投資家は森友問題を一度終わった問題とみており、今回の件をまだ十分織り込んでいないようだ。麻生氏が辞める可能性もあると指摘すると、驚いていた」──。海外投資家動向に詳しい外資系証券の営業担当者はそう話す。

昨年10月の衆院選。表向きの争点は消費増税分の使途だったが、実質的にはそれまでの森友・加計両学園などの問題で支持率が低下した安倍政権の信任を賭けた選挙だったとの見方がもっぱらだ。その選挙で自民党、安倍政権が勝利したことで、海外勢にとっては「終わった問題」との認識だという。

「昨年も森友問題が騒がれた時期があったが、時間が経てば、支持率も株価も戻っていくという姿を市場もみてきている。今後の問題の展開次第だが、現時点では政局には至らないと市場は予想しているようだ」とJPモルガン・アセット・マネジメントのストラテジスト、重見吉徳氏は分析する。

海外市場は、前週末からリスクオンの動きに回帰。5月までに米朝首脳会談が開かれる見込みとなったほか、「貿易戦争」への警戒感もひとまず後退している。2月米雇用統計でインフレや急激な利上げを巡る懸念が和らいだこともあり、米株は大幅高。ナスダック<.IXIC>は過去最高値を更新した。週明けの日本株もこの追い風を受けている。

<安倍信任は日本株投資の大前提>

しかし、海外勢による日本株買いの大前提は、安倍政権の安定だ。今後、森友問題がさらに深刻化もしくは広がりをみせ、支持率が低下する中で、主要閣僚の責任問題に発展すれば、海外勢も株安材料として本格的に織り込み始める可能性が大きい。

海外投資家は、今年1月第2週から2月第4週までに現物株と先物を合わせ約7兆円売り越している。このうち約4.9兆円が先物の累計売り越しであり、海外市場がリスクオンに転じれば、買い戻される可能性もある。

だが、「安倍政権の信任が揺らぐような事態になれば話は別だ」(外資系証券)という。海外勢の日本株売買動向をみると、2014年以降は大きなポジションの傾きはみられていないが、今後の展開次第では、アベノミクス相場最盛期の13年に買い越した約15兆円に手が付けられるかもしれない。

実際、市場でも株安への備えがじわりと進んでいる。12日の日経平均は終値でも350円高と大幅高となったが、4月限の日経225オプションでは、権利行使価格2万円、1万9000円のプット・オプション(売る権利)のプレミアムが下げ幅を縮小し、出来高が急増する場面があった。

<麻生氏辞任なら「飛車角落ち」に>

今後の焦点は、安倍内閣の要ともいえる麻生財務相の進退だ。12日午後の会見では「進退は考えていない」と言い切ったが、当時の理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官が責任を取る形で、野党が「矛」を収めるかどうかは不透明だ。

現在、衆議院の自民・公明の与党議席数は3分の2を上回っており、参議院で法案を否決されても再可決できる体制にある。

しかし、野党が欠席したまま、与党だけで強引に審議を進めることができないのも現実であり、文書書き換え問題が浮上して以降、国会審議は空転。予算案の年度内成立は確保されているものの、衆院の優越がない予算関連法案の審議が遅れ、早期成立のめどが立たなくなると、予算執行にも影響が出かねない。

「働き方改革法案やカジノ法案、日銀正副総裁の承認などは先送りされる可能性が高まっている。消費増税も見送られる可能性が大きい」と、ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は懸念する。

また、与党内からも来年の統一地方選や参院選をにらみ、麻生氏の責任論が浮上する可能性がある。「細田派と麻生派で支えてきた安倍内閣のため、麻生財務相が辞任するようなことになれば、政治情勢の流動化を意識せざるを得ない」(みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏)という。

FNN(フジニュースネットワーク)が週末に行った世論調査では、麻生財務相について、財務省による文書の書き換えが事実だった場合は、辞任するべきだとする人と、即刻辞任するべきだという人が、あわせて7割を超えたと報じている。

麻生氏に対する海外勢の評価は高いという。「官邸、財務省、日銀の微妙なバランスを麻生氏が取っている。甘利明氏に続き麻生氏が辞めれば、安倍政権は『飛車角落ち』になる。後任は見当たらず、政権の不安定化は避けられない」とBNPパリバ香港・アジア地域機関投資家営業統括責任者の岡澤恭弥氏は指摘。海外勢の日本株投資にも大きな影響を与えるとみている。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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