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アングル:ミセスワタナベがポンド逆張り、英離脱ならドル/円下落加速も

2016年06月17日(金)17時21分

 6月17日、日本の個人投資家「ミセスワタナベ」が、ポンド/円を買い増している。写真は都内で2010年8月撮影(2016年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 17日 ロイター] - 日本の個人投資家「ミセスワタナベ」が、ポンド/円を買い増している。英国の欧州連合(EU)残留を見込んだ得意の逆張りだ。しかし、予想に反し離脱となれば、流動性が乏しい同通貨ペアは急落しかねない。FX(外国為替証拠金)の強制ロスカットが生じれば、ドル/円の下落を加速させる可能性があると警戒されている。

<15倍の買い建て>

東京金融取引所のFX「くりっく365」。個人投資家のポンド/円のポジションは、6月16日時点で売り建て1万8234枚に対し、買い建ては約15倍の27万5209枚に達する。

ブレグジット(英国のEU離脱)懸念の高まりを背景に、ポンド/円は年初から17%下落し、約3年ぶりの安値水準だ。それにもかかわらず買い建てるのは、ミセスワタナベが得意とする逆張り戦略とみられている。「残留するに違いないと、ヤマを張る投資家がいる」(FX会社)という。

英金利の相対的な高さに着目し、スワップポイント(通貨間の金利差)を期待して買いが膨らみやすいとの事情もある。ただ、「ポンドが歴史的安値圏にあるというだけの理由で買っている個人投資家が、かなり多い印象だ」(別のFX会社)との指摘も多い。

国内FX取引高における「くりっく365」のシェアは1%に満たないが、残高ベースでは3割程度を占める。市場では「日本の個人投資家のポジションを、おおむね反映している」(同)とみられており、他のFX会社でも、ポンド/円の買い建ては売り建ての比率に差はあっても、同じ逆張り傾向だ。東京市場で個人投資家の取引は3割程度を占めると推計されている。

<ランド/円急落の悪夢>

ドル/円やユーロ/円と違い、流動性が乏しいポンド/円など他の通貨ペアは、ミセスワタナベの売買動向が相場に大きく影響を与えることがある。

実際、その影響力の大きさを示したケースが今年1月にあった。年初からの荒れ相場の中で、リスク回避の円高の流れを引きずって迎えた11日早朝、南ア・ランド/円が急落した。節目だった7.0円に向けてジリジリと最安値を更新する中でストップロスを巻き込んで下げが強まり、日本の個人投資家にFXの強制ロスカットが発動され、大量の手じまい売りが出たと見られている。

ランド/円の取引は通常でも商いが薄いが、11日は日本が休日。早朝(東京時間)の取引では、大量のランド売り注文に対し、買い注文は極端に少なく、提示レートが安値でも売り手が奪い合う事態となり、ランド/円は30分足らずの間に約6%下落。ドル/円にも波及し、短時間で約0.4%下押しされた。

新興国通貨は対円での流動性が低いことから、ドルを介して取引されることが多い。ランド/円であれば、強制ロスカットは「ランド売り・ドル買い」と「ドル売り・円買い」の組み合わせとなり、ドル/円相場にも影響を及ぼす。

<警戒水準はポンドの10円下落>

「くりっく365」のデータで、1月8日時点の南ア・ランド/円の買い建ては売り建ての約13倍となっていた。英国民投票を前にした足元の個人投資家のポンド/円での買い建ての売り建てに対する比率は15倍と、南ア・ランドを上回っている。ポンド/円も流動性は低い。

ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミスト、上野剛志氏は、英国のEU離脱が決まれば「個人投資家の自発的な売りや強制ロスカットが、売り圧力増幅に働き得る。市場のリスク回避度合いを強めてしまいかねず、ドル/円の下押しにも働くだろう」との見方を示す。

強制ロスカットはFX会社ごとに基準が異なるほか、レバレッジの大きさによって「のりしろ」の幅も左右される。ヤマを張ってポンド/円を買う向きは、レバレッジを抑える傾向があるという。

保守的な投資家の多い同FX会社の関係者は「足元の150円付近から、5─10円ぐらいの下落なら強制ロスカットが大きく膨らむことはなさそうだ。ただ、10円を超える下げになると、話は変わってくる」とみている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券・チーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は、残留ならポンド高方向、離脱ならポンド安方向をみており、「英国民投票の結果判明の直前を発射台とすれば、ポンド/円は5─10円、ドル/円は2─4円程度変動するだろう」と話している。

英国民投票の結果は、東京時間で24日午前から昼ごろに判明する見込みだ。「取引時間中の発表のため、プライスがつかない事態は考えにくい。ただ、離脱決定というニュースが出た瞬間は、一気に数円飛んでしまう可能性も否定できない」(国内金融機関)との警戒感が強まっている。

(平田紀之 編集:伊賀大記)

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