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アングル:サウジ「脱石油依存」、産業多角化・民間重視に転換

2016年01月26日(火)16時57分

 1月25日、 サウジアラビア政府は、ITからヘルスケア、観光などさまざまな産業に進出する意欲的な計画を打ち出し、原油下落にも対応できる姿勢を海外投資家にアピールした。写真は2014年1月ダボス会議に出席したサウジアラムコのファリ会長 (2016年 ロイター/Ruben Sprich )

[リヤド 25日 ロイター] - サウジアラビア政府は25日、情報技術(IT)からヘルスケア、観光などさまざまな産業に進出する意欲的な計画を打ち出し、主要収入源である原油の安値時代にも対応できることを海外投資家にアピールした。

原油価格の下落が長期化していることで、サウジの通貨は圧迫されており、国庫の年間の財政赤字は1000億ドルに迫っている。サウジ経済はここ10年超の間で最も深刻な難局に直面していると言えよう。

こうした中、投資促進機関はリヤドの高級ホテルで、改革に関する会議やプレゼンテーションを大々的に開催。国内外の政府要人や、企業関係者、コンサルタント、学術経験者ら2400人以上が参加した。

サウジの政府高官は、石油や公的部門の雇用への依存度を引き下げる方針を表明。成長や雇用創出を民間セクターに移行させるとともに、初期段階には公的資金を投じて産業振興を目指す姿勢を明らかにした。

国営石油会社サウジアラムコのファリ会長は「商品輸出に依存した量的成長から、(経済全体に)均等に及ぶ質的成長への転換」を主張。

また、サウジのラビーア商工相は、サウジ経済の現状について、石油業界がその他のセクターを閉め出すいわゆる「オランダ病」にかかっている、との認識を示した上で、是正に向け取り組んでいると述べた。

政府関係者によると、サウジは今回打ち出した改革の下、国家のヘルスケアシステムの一部を独立した営利会社に移管する方針という。

会議には、米ロッキード・マーチンやペプシコの最高経営責任者(CEO)らも出席。起業の促進や、活力ある都市の形成、ビジネス界におけるサウジ女性の役割拡大など、多様なテーマについて議論した。

<厳しい道のり>

今回の会議とプレゼンに海外から多数の企業関係者が参加したことは、サウジへの期待感の大きさの表れだ。サウジが財政赤字の穴埋めのために外貨資産を取り崩しているとは言っても、外貨資産は11月時点で6280億ドルと、新規プロジェクトの資金繰りに当面問題はない。

しかし、サウジが計画通りの大胆な改革を実行できるのかについては、一部に懐疑的な見方も強い。同国ではおよそ3分の2が公的部門で雇用されている。石油業界の力が圧倒的に強い中、起業は伝統的に低調であり、金融・司法システムも起業を促進するようにはできていない。

カリフォルニア州に本拠を置き、サウジ企業と取引のあるオーガナイズド・チェンジ・コンサルタンシーのマネジングパートナー、デービッド・シュードロン氏は「金利生活者国家からの転換は、心地良いものではない」と指摘。「努力はしている。ただ問題は、現行体制の欠点が打撃となる前に、努力が実を結ぶのかどうかという点だ」と述べた。

駐サウジのジョセフ・ウェストファル米大使も、改革を実行する上での障害を挙げる。「サウジは柔軟性のある政府システムを採用しなければならない」とし、政府高官は決定を他に委任したり、失敗する可能性があるなかでも、リスクをとっていくという姿勢が必要と述べた。

それにも関わらず、今回の会議やプレゼン参加者の多くは、改革実行に向けた強い政治気運が存在することを感じ取っているようだ。

サルマン国王が昨年1月に就任、息子を議長とする経済開発問題会議を創設して以来、ムードは変わったという。サウジ政府は今回の改革計画の策定では、西側から数百人のコンサルタントを招いたとされる。

サウジアラムコのファリ会長は、造船などの産業の立ち上げに向けて資金を投じる、としたほか、改革に必要な人材育成にも貢献していく考えを表明。「サウジアラムコは改革のかけ橋になりたい」と語った。

(Andrew Torchia記者、Katie Paul記者 翻訳:吉川彩 編集:吉瀬邦彦)

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