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焦点:肉に挑む人工肉、米スーパーで熾烈な売り場の陣取り合戦

2019年06月15日(土)09時33分

Tina Bellon

[ニューヨーク 6日 ロイター] - 植物由来の代替肉メーカー米ビヨンド・ミートは、自社製品は米スーパーの「精肉売り場」に並ぶ世界初の植物性バーガーであるとうたい、本物の牛ひき肉や豚肉ソーセージに真正面から戦いを挑んでいる。

だが米国のスーパー各社に取材したところ、小売業者はビヨンド・ミートの製品をどの売り場で扱うべきか頭を悩ませていた。現段階では、同社が求める精肉売り場ではなく、ビーガン(絶対菜食主義)食品売り場が優勢なようだ。

精肉売り場に早く地歩を築こうとする新興のビヨンド・ミートと、同業のインポッシブル・フーズや食品大手ネスレ製の植物性肉が参入してくる前にこれを迎え撃とうとする食肉業者との間で、スーパーの売り場を巡る熾烈(しれつ)な戦いが起きている。

全米19州で150店舗を運営する自然食品スーパーのビタミン・コテージ では、ビヨンド・ミートの製品は、消費者の混乱を避けるため精肉売り場ではなく豆腐などの代替たんぱく質を扱う冷蔵ケースで販売しているという。

ニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの各州と首都ワシントンにある「キングズ・フード・マーケッツ」と「バルドゥッチズ・フードラバーズ・マーケット」の計35店舗では、ビヨンド・ミートの製品は乳製品と精肉の両方の売り場で売られている。

「両売り場ともに、売れ行きは好調だ。消費者は、新しいカテゴリーの食品だと受け止めているようだ」と、両スーパーを経営する投資会社KBホールディングスのスティーブン・コラディーニ氏は言う。

北西部に展開する「タウン&カウンティ・マーケッツ」や、ニューヨークが本拠地の「モートン・ウィリアムズ・スーパーマーケッツ」、そして中西部の「フレッシュタイム・ファーマーズ・マーケット」などのチェーン店でも、どこの売り場に置かれたかにかかわらず、ビヨンド・ミートの製品の需要は極めて高いと、コラディーニ氏と同様の話が聞かれた。

ビヨンド・ミートや他の植物性バーガーのメーカーは、肉と真っ向から対峙(たいじ)する構えだ。ビーガンやベジタリアン(菜食主義)といった言葉は使わず、菜食主義の客が豆腐やテンペなどの植物性たんぱく食品を買いに来るビーガンの売り場には自社製品を置かないよう、店側に要請している。

同社のターゲットは、健康リスクや動物の取り扱い、また伝統的な畜産がもたらす環境破壊への懸念から肉の消費を減らそうとしている多数派の消費者であり、そのため製品の見た目や味、調理方法を一般的な牛ひき肉のバーガーに似せている。

同社のサイトでは、エンドウ豆のたんぱく質とココナッツ油、キャノーラ油が原料のソーセージやバーガーのパティについて、こう説明している――「精肉売り場で販売中」と。

ビヨンド・ミートは、規制当局に提出した書面で、売り場が変われば新たな顧客を引き付けることができなくなり、肉類に対抗できなくなって成長が阻害されかねないと訴えている。

アナリストは、ビヨンド・ミートの販売戦略は競争相手に比べて「非常に有利」であり、2035年までに1000億ドル(10兆8000億円)規模に成長するとみられる米国の植物性肉市場において、最大限のシェア獲得を後押しする差別化要素だと指摘している。

投資家もこのビジネスモデルを好感しており、ビヨンド・ミートのバリュエーションは、同社側が利益を生むことはないかもしれないと表明しているにもかかわらず、5月2日に上場した際の15億ドルから60億ドル超に上昇した。

だが、小売業者9社に取材したところ、ビヨンド・ミート側は自社製品を本物の肉と同じ売り場で売るよう要請してはいるが、契約上の義務ではないという。

22州で約160店舗を運営する「ザ・フレッシュ・マーケット」では、ビヨンド・ミート製品を、他のベジタリアン用バーガーと一緒に冷凍ケースや乳製品売場で販売し、売り上げを見つつ長期的な売り場戦略を練っているという。

「冷凍ケースがまず思い浮かんだ。さもないと、われわれの顧客は、どこに行けば製品があるのか直感的には分からないだろう」と、同社のドワイト・リッチモンド氏は言う。

大手クローガーや小売り大手ターゲット、アマゾン傘下のホールフーズ、ウォルマートなど、ビヨンド・ミート製品を扱う大手にも取材を申し込んだが、回答がなかったか、販売戦略についてコメントを拒否した。

カリフォルニア州南部で28店舗を展開するゲルソンズで精肉や魚介類を担当するショーン・サエンス氏は、当初冷凍ケースにビヨンド・ミートの製品を置いた時は、売り上げはさえなかったと話す。

だがバーガーを冷凍ケースから別の場所に移すと、売り上げが60%上昇したという。ビーガン食品全体の売り上げも20%上昇した。

「ビヨンド・ミート製品の売り上げの6─7割はビーガン食品の売り場」であり、精肉売り場での売れ行きは「衝動買い的なものがほとんど」だと、サエンス氏は話した。

「精肉と同じ規模まで大きくなることはないと思うが、確実に売り上げを押し上げている。小売業者なら、どこでもありがたがることだ」と、同氏は付け加えた。

<消費者の混乱>

精肉売り場は、スペースが限られているほか、腐りやすい肉を冷蔵しておく必要があるため、スーパー内で最も制限の多い場所の1つだと、小売業協会であるフード・マーケティング研究所で生鮮食品を担当するリック・スタイン氏は言う。

小売店では、タイトな精肉売り場を削って植物性肉の売り場を作り、売り上げを伸ばすためベーコンやソーセージ、ハムの隣に置いているという。

こうした動きに対し、米国肉牛生産者協会(USCA)は、精肉売り場は本物の肉専用にすべきで、植物性肉を置けば消費者が困惑し、精肉売り場の信頼が揺らぐとして反発している。

「これらの植物由来の(製品を作る)企業は、長年かけて消費者の信頼ある健康的なブランドを築き上げてきた牛肉業界に便乗している」と、USCAのリア・ビオンド氏は批判する。

<迫る競争>

ビヨンド・ミートの製品は約3年前から小売店で扱われるようになったが、植物肉製造の競合他社が参入するようになり、こうした議論も過熱し始めている。

「みな精肉売り場に商品を置きたがるので、場所取り争いが激しくなっている」と、小売食品市場のエキスパートであるフィル・レンパート氏は言う。

ライトライフというブランド名でビーガンの「ひき肉」などの植物性肉を製造しているカナダのメープルリーフフーズは、今夏までに米国内の小売店の精肉売り場に製品を並べる。

これまでレストラン向けの卸売に特化してきたインポッシブル・フーズは、年末までにスーパーの精肉売り場に同社のインポッシブル・バーガーを置く計画だ。

食品世界最大手のネスレも、傘下の米ブランドのスイート・アースに、豆から作った植物性パティの「オーサム・バーガー」を加える予定だ。スウィート・アースを2012年に創業したケリー・スウェッテさんは、9月か10月にスーパーやレストランにオーサム・バーガーがお目見えすると話した。

米食肉加工最大手のタイソン・フーズは、保有していたビヨンド・ミート株を4月に売却したが、その後独自の代替たんぱく質食品の開発に取り組んでいる。

セーフウェイなどのスーパーを所有するアルバートソンズで精肉と水産を担当するジョン・ベレッタ氏は、精肉売り場は消費者の需要に従って変わり、一部の肉製品は植物精肉に置き換わる可能性があると話す。

「今は、植物性肉が独立した分野として確立しつつある段階だ。今年の末までに、精肉売り場内に植物性肉コーナーが設けられるようになるだろう」と、同氏は予測した。

(翻訳:山口香子、編集:宗えりか)

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