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焦点:政府・日銀、円高・株安に警戒感 カギ握る米当局の政策判断

2019年01月04日(金)18時49分

[東京 4日 ロイター] - 2019年の仕事始めとなった4日、政府・日銀は年末・年始に急速に進行した円高・株安の対応に追われた。財務省・日銀・金融庁による臨時の3者会合を開き、為替市場介入も辞さない姿勢を示したものの、市場へのけん制効果は限られた。米中貿易交渉や米利上げの行方などが、円高・株安の行方を大きく左右するとみられ、日本を巡る市場変動の動向は、米政策当局の政策判断に大きな影響を受ける構図となっている。

昨年10月以降の急激な株安で、日経平均株価<.N225>は5000円近くも下落した。株価に比べて落ち着いて推移していた為替市場も、年末以降に変貌。3日の海外市場でドル/円は一時、104円台まで急激な円高が進行した。

市場の動揺が増幅する中、財務省・金融庁・日銀は臨時の「国際金融資本市場に係る情報交換会」(3者会合)を開催。同会合は株価急落を受けて昨年末の12月20日、25日に続く3週連続での開催になり、異例の頻度が政府・日銀の危機感を表している。

終了後に会見した浅川雅嗣財務官は、為替市場の急激な動きに「強い懸念を持っている」とし、「必要なことがあれば、適切に対応するというスタンスに変わりはない」と市場をけん制した。

しかし、金融市場では「日銀に追加緩和手段が乏しいことなどが、狙い撃ちされている」(メガバンク)とされ、効果は限られた。

年末以降の株安は、米中貿易摩擦の激化と米国の利上げ打ち止め観測が背景。米利上げペースの緩和は米株にとって好材料といえるが、円高を誘発する可能性がある。浅川財務官は4日の会見で「日米金利差の縮小も(円高の)1つの要因」と認めた。

日本側の政策対応余地の限界も指摘される中、安倍晋三政権が掲げるデフレからの脱却が一段と遠のきつつある。

安倍政権としては、2019年に参院選や消費増税を控えており、金融市場の変調が実体経済だけでなく、支持率の低下につながることは何としても避けたいところ。

安倍首相はリーマン・ショック級の出来事が起きない限り、消費増税を予定通り実行する方針。

だが、米中間の貿易交渉が不調に終わる場合、世界的にリスクオフ心理がさらに強まる可能性がある。グローバルな株価下落が続くことになれば、景気敏感株の様相を強めている日本株にとって、大きな下げ要因として働く公算が大きくなる。

その場合、消費増税の延期の可能性が高まることも予想され、財政健全化を重視する与党内の勢力から、批判を浴びるリスクもすでに指摘されている。

内閣支持率は、昨年末の報道各社の世論調査で低下傾向となっており「経済で持ってきた政権なので、株価下落がかなり影響している」(与党幹部)との分析もある。

もっとも、国際金融市場には、リスクオフ要因ばかりでなく、米中貿易交渉の合意成立など、リスクオンに傾く材料もあり、政権運営への影響は「変数が多すぎてみえない」(政府・与党関係者)との見方が多い。

4日に開かれた全国銀行協会の賀詞交換会における年頭のあいさつで、黒田東彦日銀総裁は、今年の日本経済について「何としてもデフレ脱却に向けて前進させる必要がある」と強調した。

だが、足元で進行する円高・株安が、物価2%目標の実現時期をさらに遠のかせることになりそうだとの見方が、金融市場関係者の中で急速に高まっている。

一段と円高が進行した場合、政府・日銀が何らかの「対応策」を打ち出すのではないかとの思惑も、市場の一部でくすぶり出した。

黒田東彦総裁は、デフレ脱却へ「辛抱強く、粘り強く、一貫した政策をとっていくことが極めて重要だ」と指摘。政府・日銀一体となった取り組み継続の重要性も訴えた。

政府・日銀が対応を迫られるのかどうか、その鍵は、トランプ米大統領やパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長ら、米国の政策を決めるトップが握っているとも言えそうだ。

(竹本能文 伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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