ニュース速報

焦点:溝深まる日産とルノー、かじ取り役不在で3社連合の前途多難

2018年11月24日(土)17時11分

[横浜市/パリ 23日 ロイター] - 日産自動車<7201.T>、ルノー、三菱自動車<7211.T>3社の会長を兼務してきたカルロス・ゴーン容疑者が22日の日産の臨時取締役会で、同社の会長職と取締役の代表権を解かれた。ルノーは解任決議の延期を求めていたとされ、早くも日産とルノーの間に溝が生じている。

かじ取り役を失った3社の連合(アライアンス)のあり方がどのように変化するのか。その前途には不透明な霧が立ち込めている。

<ルノーの解任決議の延期要請を無視>

金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕されたゴーン容疑者の会長と取締役の代表権はく奪が提案された臨時取締役会は、横浜市の日産本社で22日午後4時半から始まった。この日の議論は、午後8時半まで約4時間に及んだ。

関係者によると、臨時取締役会前にルノーは、日産に解任決議の延期を強く求めていた。しかし、日産は全会一致による解任に持ち込んだ。4時間のうち、「相当な時間を割き、(ゴーン容疑者逮捕に至った)内部調査の結果が丁寧に説明された」(別の関係者)といい、ルノー出身の2人も賛成せざるを得なかったもようだ。

後任の会長は今回決めず、暫定的な会長も置かなかった。選出の透明性や独立性を保つため、社外取締役3人からなる委員会(委員長:豊田正和氏)が新たに設けられ、現取締役の中から候補を提案することにした。

投資資金や経費の私的流用も発覚し、会社を私物化していた実態が明らかになったゴーン容疑者。日産幹部の1人は「日産のステークホルダー全員に対する裏切り行為。絶対に許されない。解任は妥当」と話す。ただ、これまでの3社連合は、ゴーン容疑者の「鶴の一声」で意思決定されてきただけに、今後は意見がまとまらず、「時間がかかるのでは」と懸念する。

三菱自関係者は「ゴーン氏は経営者としては非常に優れているし、日産と三菱自が対立した時も、三菱自の意見を尊重してくれた」と、その存在感の大きさに言及している。   <日産とルノー、深まる溝>

日産の親会社であるルノーは、20日の臨時取締役会で、ティエリー・ボロレ最高執行責任者(COO)を暫定トップとし、ゴーン容疑者の会長兼最高経営責任者(CEO)の解任は見送った。「解任するのに十分な情報や証拠がない」。ルノーの筆頭株主で15%を出資するフランス政府のこうした意向をくみ、疑惑の詳細が判明するまで先送りした。

フランス政府はもともと、ルノーの日産に対する影響力を強めたい意向があり、近年はゴーン会長の退任後を見据え、連合が解体しないよう不可逆的な関係構築を目指していた。一方、日産は対等な関係や経営の独立性維持を求め続けており、真っ向から異なる。

ゴーン容疑者の処遇も、ルノーは「見送り」。一方、同社が決議延期を求めたにもかかわらず、日産はこれを受け入れず「解任」。日産とルノー、フランス政府の溝はさらに深まる恐れがある。

<「より対等な関係」を模索したい日産>

検討を続けてきた日産とルノーの資本関係見直しも、さらに混迷を極めそうだ。現在の資本構成は、ルノーが日産に43.4%、日産はルノーに15%を出資する。ただ、ルノーは日産に対し議決権を持つが、日産はルノーに対して議決権を行使できないといういびつなものだ。

両社の資本関係は、1999年に経営危機に陥った日産をルノーが救済したことに始まるが、現在は立場が逆転し、ルノーを日産が支えている。ルノーの2017年度の純利益の約半分は、日産の業績が寄与する持分法投資利益からきている。

約20年もトップに君臨しながら、ゴーン容疑者は長年続いていた一連の完成検査不正で批判の矢面に立たず、役員報酬も自ら決めていた。3社間のあらゆる機能の共通化でも、ゴーン容疑者の息のかかったルノー出身者が責任者を務めるなど「役員選出も彼の思い通りだった」と三菱自関係者は振り返る。

別の日産幹部は「それぞれがより独立した形で、ウィン・ウィンの関係という原点に戻るべきでは」と指摘。ルノーが日産に対する出資比率を下げるなど「より対等な関係」を模索していくことを示唆した。

日産は15年、経営の独立性を担保する合意をルノーからとりつけているが、日産が15%から25%までルノーへの出資比率を高めれば、日本の会社法によりルノーが持つ日産株の議決権は消える。

<切っても切れない関係>

日産とルノーの両社はこれまで車種ごとの設計・部品の共通化、14年4月からは研究・開発、生産・物流、購買、人事の4機能の統合を進めてきた。100年に1度といわれる変革期を乗り越えるため、電気自動車や自動運転などの次世代技術でも共通化を進めており、3社は今や切っても切れない関係にある。

日産は22日、ルノーとのパートナーシップは不変であることも確認したと表明した。自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストは、日産が単独で生きていくのは厳しいとしつつ、連合の運営や資本関係の見直しなどで「相当もめるのでは」とみている。また、フランス政府の思惑から日産が離れていく場合、フランス政府が「何かしら手を打ってくるのでは」と予測する。  

ゴーン容疑者は自らの晩節を汚しただけでなく、3社連合の未来にも大きな影を落とした。同業他社の幹部は、3社連合に漂う緊張関係を他山の石とし、こう指摘している。「資本を出し合うことが連合ではない。気持ちが一致していなければ何をやってもダメだ」――。

(白木真紀 取材協力:山崎牧子、久保信博、Daniel Leussink、Laurence Frost  編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、カンボジアとタイは「大丈夫」 国境紛争

ワールド

コンゴ民主共和国と反政府勢力、枠組み合意に署名

ワールド

米中レアアース合意、感謝祭までに「実現する見込み」

ビジネス

グーグル、米テキサス州に3つのデータセンター開設
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中