コラム

日本の捕鯨票買収疑惑と怪しい暴露報道

2010年06月16日(水)18時21分

passport060510.jpg

鯨の町 映画『コーブ』でイルカ猟とともに告発された和歌山県の太地町。
400年前から捕鯨を続けてきた
Issei Kato-Reuters

 1986年に国際捕鯨委員会(IWC)で禁止された商業捕鯨の再開が、日本の悲願であることは秘密でも何でもない。その願いを叶えるために、IWC加盟国の票を買ったという疑惑があることも。だが今回、イギリスの高級紙タイムズは6月13日付けの日曜版で、日本が援助と引き換えに少なくとも6カ国の票を買った「証拠」を得たと報じている


 日本はIWC加盟国の買収疑惑を否定している。だが、捕鯨を支持する複数の政府の関係者は、サンデー・タイムズ紙のカメラの前で、捕鯨を支持したのは日本から多額の援助があったからだと認めた。1つの国の代表は、自国の領海に鯨がいるかどうかさえ知らないと言い、他の国々には海すらなかった。

 セントクリストファー・ネビスやマーシャル諸島、キリバス共和国、グレナダ、赤道ギニア共和国、コートジボワールなどの政府は皆、援助と引き換えに捕鯨支持票を投じる交渉に応じた。

 ギニア政府の漁業担当幹部は、IWCなど漁業関係の会議があると、日本は「少なくとも」1日1000ドルの小遣いを現金で大臣にくれていたと言う。


■反捕鯨派は巻き返しに必死

 もしタイムズの報道が真実とわかれば、商業捕鯨を再開させようとしてきた日本の努力は大打撃を受けるかもしれない(編集部注:ここで引用された記事の原文には取材方法も開示してある。記者たちは、自然保護派の億万長者を装い、反捕鯨派に立場を変えるなら報酬を支払うと言って各国代表に証言させたとある)。

 だが、反捕鯨団体が喜ぶのはまだ早い。捕鯨派と反捕鯨派の対立はここ数カ月急速に先鋭化している。6月21日からモロッコで開くIWC年次総会での投票に向けて、IWCは現在、日本の主張に沿う制限付きの商業捕鯨の是非について報告書を準備している。捕鯨派と反捕鯨派のつばぜり合いが激しくなっているのはそのためだ。5月末にも、南極海での調査捕鯨の廃止を求めてオーストリアが日本を国際司法裁判所に日本を提訴したばかり。

──ブライアン・ファン
[米国東部時間2010年06月15日(火)09時58分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 16/6/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story