コラム

歴史を記録する写真の偏った視点

2009年06月11日(木)20時39分

メディアやフォトジャーナリストは戦争をどのように描写し、どこに焦点を絞っているのか----これが、5月22日の公開討論でティム・ヘザリントン(2008年世界報道写真コンテスト大賞受賞者)、スティーブン・メイエス(セブン(VII)ディレクター)と私が議論したテーマの1つだ。

 戦争の報道は戦争そのものと同様に、ほとんどが男性によって行われている。もしかしたらそのことが、戦争が動的で、英雄的で、輝かしく、悲劇的なものとして描かれるケースが多いことと無縁ではないのかもしれない。

 メディアが読者や視聴者を挑発したり、その状態に意義を唱えることはめったにない。戦争が政治的な理由を伴って報道されることもあるが、商業的な扱われ方のほうが圧倒的に多い。紛争はほとんどの場合、微妙なニュアンスや思想を含まないものとして描かれる。

Gary Movie

写真家たちは戦争をどのように切り取ってきたか――それが公開討論のテーマだった。
右から、ゲイリー・ナイト、ティム・ヘザリントン、スティーブン・メイエス

 フォトジャーナリズムの最近の役割の中に、視覚によって人類の集団的な歴史を記録することがある。しかし、現代の重大な事件や問題を撮影するのは、主に営利目的の組織で働くフォトジャーナリストたちだ。そのせいで人類の集団的な歴史は狭く偏った視点で描かれているのではないか。私はそんな風に考えている。

 フォトジャーナリストは撮影しやすいもの、自分の顧客が求めていると思われるもの、人目を引くもの、自分にとって得になるものを撮影する。ありふれた、一見するとごく普通の事柄が、ある問題の微妙なニュアンスを理解するために重要だとしても、それが撮影されることはない。せいぜい1つの逸話として私たちの記憶に残るか、映像ではなく文章など他の手段で記録されるだけだ。

 こうした状況は正すべきだと思うが、メディアがそれを行うことはまずないだろう。
 では私たちはどうすればいいのだろうか。

プロフィール

ゲイリー・ナイト

1964年、イギリス生まれ。Newsweek誌契約フォトグラファー。写真エージェンシー「セブン(VII)」の共同創設者。季刊誌「ディスパッチズ(Dispatches)」のエディター兼アートディレクターでもある。カンボジアの「アンコール写真祭」を創設したり、08年には世界報道写真コンテストの審査員長を務めたりするなど、報道写真界で最も影響力のある1人。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story