Laura Gottesdiener Ayose Naranjo Stefanie Eschenbacher

[ハバナ 11日 ロイター] - 手狭なアパートでは、1ガロン約38ドル(約6057円)でガソリンが売られている。レゲトン音楽を背景に、有名モデルがインスタグラムでディーゼル油を宣伝する例もある。フィデル・カストロ氏による革命から60年以上を経て、キューバの国家管理下にあるエネルギー部門に、資本主義的な動きが突然広がり始めた。

米国による厳しい対キューバ石油禁輸措置の中でも、キューバの民間企業向けの燃料輸出を認める例外規定が存在する。この例外規定をきっかけに、混乱した闇市場が生まれ、革命以来、国家が厳格に管理してきたエネルギー分野に民間取引が入り込み始めた。

キューバの伝統的な石油供給国であるベネズエラとメキシコからの輸出は、トランプ米大統領が今年1月に南米ベネズエラのマドゥロ大統領(当時)を拘束し、大統領の座から引きずり下ろしてから突然途絶えた。米沿岸警備隊はキューバ沖を巡視し、制裁や警告によって多くのタンカーは出航さえためらう状況になった。

禁輸措置は医療制度や公共交通機関、学校など国家運営の重要サービスに深刻な打撃を与えている。ただ、米商務省の例外規定により、少量ながらガソリンやディーゼルが民間のレストラン、小売店、タクシー事業者へ流入。これは革命後にカストロ政権が製油所を国有化して以来、初めて本格的に米国産燃料がキューバへ持ち込まれた事例とみられる。

ロイターは、キューバ向けに燃料を輸送している米企業を特定できなかった。ただ、大手石油商社が関与している形跡はない。

輸入された燃料の一部は闇市場で転売され、購入できる人々は車や家庭用発電機の燃料を確保している。公共交通の崩壊や計画停電の影響を和らげるほか、家庭用ポンプを動かすことで、機能不全に陥りつつある水道供給システムの支えにもなっている。

一方、この例外措置は一定の救済策となる半面、所得格差をさらに広げている。

7月のある午後、アマリリス・サンチェスさん(53)は首都ハバナのバス停で数時間待っていた。娘の誕生日を祝った後、自宅に戻る路線バスが来る見込みはほとんどないと感じていた。

通りの向かいにいた数十人のタクシー運転手の一人、イスマエル・コウティーニョさんはサンチェスさんを送ることはできると言ったが、料金は1000ペソ。通常2ペソのバス運賃の500倍に上る。背景にあるのは、闇市場で高騰したガソリンやディーゼルの価格だ。

定職を持たず、そんな金額を到底支払えないサンチェスさんは日が暮れるまで待ち、それでもバスが来なければ娘の家に泊まった上で、翌日に再びバスを待つつもりだと語った。

<闇取引とSNS広告>

2月から5月までに輸入された米国産燃料は90万バレルで、キューバ全体の需要の約9日分にすぎない。ロイターが闇市場の流通拠点や正規卸売業者を訪れ、事業者、経済学者、外交関係者、制裁専門家らに取材したところ、それでもこの輸入は大きな変化につながっていることが分かった。

今月9日の夜11時前に全国送電網が停止し、ハバナは暗闇に包まれたものの、一部のレストランや店舗だけは明かりがともっていた。輸入燃料で動く発電機のおかげだ。

転売市場も急速に広がっている。ハバナ中心部のあるコンビニでは、炭酸飲料やビール、クラッカーが並び、客たちは入口でビリヤードを楽しんでいた。その一方で、店の奥には20リットル入りのガソリン容器が十数本並び、1リットル5ドル、1ガロン当たり約19ドルで販売されていた。

近くの集合住宅では、フェイスブックでガソリン販売を宣伝している男性が火災や爆発、有毒ガスの危険を承知で、自室に燃料をため込んでいる。違法燃料販売専用のワッツアップのグループチャットも急増した。

闇市場価格は今年春、1リットル当たり10ドル、1ガロン当たり約38ドルという極めて高い水準まで上昇した。だが、その後輸入量の増加によって幾分落ち着いた。

こうした中で、キューバ政府は石油封鎖による経済麻痺を回避するため、2月に民間企業による自社利用目的の燃料輸入を初めて認可。6月にはキューバの立法府が、エネルギー分野を民間および外国投資家に開放する包括的な経済改革案を承認した。改革はまだ全面実施されていないとはいえ、7月末までに約200社のキューバ企業が他の民間企業向け燃料卸売事業の認可を得ている。

ある企業の交流サイト(SNS)広告は大きな話題となった。著名なキューバ人レゲトン歌手の元恋人として知られるモデルが、ディーゼル燃料の大型コンテナが並ぶ倉庫内を歩き回る映像に、ダディー・ヤンキーさんのヒット曲「ガソリーナ」が流れるという内容だ。

広告を出した企業の広報担当者によれば、同社の取引対象は登録済み民間企業だけで、940リットル入りタンクを1リットル当たり2.50ドルで販売しているという。

<持てる人々が利用>

さらに重要なのは、キューバが島内で燃料輸入・販売を行う初の外国投資事業を承認した点だ。マレロ首相が7月下旬に明らかにしたが、企業名は公表されていない。

キューバの法令は、特別な許可なしに輸入燃料を再販売することを禁じている。改革により、国営石油会社の特徴的な赤と緑のガソリンスタンドの一部を民間企業が運営できる可能性が示されているものの、小売販売はまだ認可されていない。

ハバナのコンサルティング会社アウヘの創業者オニエル・ディアス氏の話では、一部の国営ガソリンスタンドでは米国産燃料を保管しているが、給油できるのは特定の民間企業に登録された車両に限られている。

キューバ当局はコメント要請に応じなかった。

米国務省のトミー・ピゴット報道官は、民間企業や非政府組織(NGO)、外交機関が主に米国から燃料を輸入していると述べた。一方、米国の政策が闇市場や高価格に与える影響については回答しなかった。

キューバの政府職員の平均月給が約10ドル、実質6700ペソにすぎない中、輸入燃料は900万人の国民の大多数にとって手が届かない。一方、一部の燃料は闇市場で公然と販売されている。

闇市場で公然と売られる燃料はキューバ法に違反しており、米国の輸出規則上もコンプライアンス上のリスクを伴う。同規則は、燃料が民間部門での使用を目的とし、キューバ政府の手に渡ってはならないと定めている。

テキサス大オースティン校のキューバ・エネルギー専門家で元石油業界幹部のホルヘ・ピニョン氏は「(米国の対キューバ燃料輸出の例外措置は)制度としては立派に見えるが、実際に規則が守られているか監視する仕組みがない」と指摘する。

ロイターは、この過程で燃料が横流しされた証拠を確認していない。また燃料がキューバ政府関係者や米国制裁対象組織の手に渡った証拠も見つからなかった。

ディアス氏が明らかにしたところでは、メキシコやパナマなど他国もここ数カ月、少量ながらキューバの民間部門向けに燃料を輸出している。

<不平等の拡大>

現在、キューバの民間企業向けの米国産燃料は、米国の制裁対象であるキューバ国営機関が管理する港湾施設や貯蔵タンクを経由しなければならない。ディアス氏によると、民間企業は国有インフラ利用のためにこれらの機関とサービス契約を結び、1リットル当たり約0.11ドルを支払っている。ロイターは、この過程で燃料が横流しされている証拠を確認できなかった。

ただ、制裁の仕組みの複雑さから、多くの米国大企業はキューバ向け燃料輸送への参入をためらっている。

キューバ政府は今後も規制緩和と民間投資促進を続ける方針だが、改革がどこまで進むかも不透明だ。貧困問題を専門とする社会学者マイラ・エスピナ氏は、高価な米国産燃料の少量輸入では、トランプ政権下の禁輸措置で失われた燃料供給を補えないと語る。

エスピナ氏は「少なくとも国の完全な機能停止は回避できている」と評価しつつも、同時に公共サービスに依存して暮らす大多数のキューバ国民にとっては「不平等をさらに拡大し、固定化させている」と指摘した。

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