※この記事は、2026年6月2日に東京都内で開催された IGSI(国際インテリジェンス戦略研究所)主催の「第一回インテリジェンス・セミナー」で登壇した米CIA(中央情報局)国家秘密活動局の元副長官であるマーク・ケルトン氏の講演を基に、スピーチ内容を再構成したものです。
2011年5月2日、パキスタンの民家で、国際テロ組織アルカイダの最高指導者、ウサマ・ビンラディンが米海軍特殊部隊SEALsによって殺害された。
米ワシントンD.C.のホワイトハウスでは、当時のバラク・オバマ大統領をはじめとする米政府幹部らが、作戦の一部始終をライブ映像で見守っていた。その映像をイスラマバードの米大使館からホワイトハウスに送っていたのが、当時CIAパキスタン支局長だったマーク・ケルトン氏である。
実はケルトン氏は、ビンラディン殺害後に突然体に異変をきたし、パキスタンから強制的に帰国を余儀なくされた。米メディアはその理由を、関係が悪化していたパキスタンの情報機関から毒を盛られたからだと大々的に報じた。
ケルトン氏はCIAで長年、米対外政策の最前線で活躍したスパイだ。パキスタンを去って帰国するまで、いくつもの国でスパイとして勤務した。CIAでは、CIA功労情報勲章、CIA功労経歴情報勲章、国家情報長官功労勲章、CIA長官賞、2015年優秀上級情報官ランク賞、CIA情報功労章、CIAドノバン賞など、数多くの栄誉を受けた。
「非常に困難だが、やりがいのある作戦だった。あの時期にあの件に関与できたことは光栄に思う」
ケルトン氏はそう語った。印象的だったのは、彼が最後までビンラディンを名前で呼ばなかったことだ。言葉を選び、余計なことは語らない。その姿勢には、長年、秘密の世界で生きてきた人物特有の緊張感があった。