国力の基盤である企業活動と技術力に危険が
ケルトン氏はCIAで34年にわたり、米国の対外政策と情報活動の最前線にいた。冷戦期には東欧で対ソ連工作に従事し、ウラジーミル・プーチンが権力を握った時期にはモスクワでCIA支局長を務めた。その後、欧州、パキスタンでも支局長を歴任し、帰国後は米国内で外国情報機関の活動を追う防諜部門で副長官となっている。スノーデン事件の捜査担当者となり、米政府側の対応を担った。
そんな人物が今、強く警鐘を鳴らしているのが、企業を狙うインテリジェンス活動である。
ケルトン氏によれば、現代の国家安全保障は、政府機関や軍だけで成り立っているわけではない。米国でも日本でも、国力の基盤は企業活動と技術力にある。先端技術、研究開発、サプライチェーン、顧客データ、M&A、規制戦略を持つ企業は、国家間競争における重要な戦略資産だ。つまり企業が自らの技術、人材、情報を守ることは、単なる企業防衛ではなく、国家安全保障そのものに関わる。
特に警戒すべきなのが「インサイダー脅威」である。内部の従業員、役員、研究者、取引先関係者が、金銭、思想、強要、自尊心、不満などをきっかけに、企業情報を外部へ流す可能性がある。情報機関は、借金、昇進への不満、職場での孤立、退職前後の不安、海外にいる家族への圧力といった脆弱性を見つけ、時間をかけて関係を築き、協力者として取り込もうとする。
中国やロシアのようなインテリジェンス国家は、企業活動にも直接影響を及ぼす。中国では国家安全部(MSS)や人民解放軍、統一戦線工作、企業、研究機関、学術交流、人材招致プログラム、合弁事業、投資、海外在住中国人への圧力などが、情報収集や影響力工作に利用され得る。目的は軍事機密だけではない。