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山本彌生|アメリカ

米オレゴン州司法省次官が語る『大統領選挙、フェイクニュース、そしてバイアス犯罪』の最新動向

newsweekjp_20240430014753.jpgPhoto | Yayoi Yamamoto_PDXcoordinator, LLC

『ヘイト➝バイアス犯罪』、私たちに直接かかわる問題とは?

米国には2つの司法省があります。1つは米国司法省、主に連邦の法律に焦点を当てています。

もう1つは州の司法省。州法の執行や司法制度の管理を担当し、刑事・民事事件の処理、法の適用、市民の権利保護などを行います。

現在、約1400人の職員が勤務するオレゴン州の司法省。近年では、ヘイト犯罪、児童関連、麻薬、データプライバシーの問題に多くの時間を費やしているとのこと。

では、そのような課題を考慮に入れて、司法省が私たち市民の日常生活にどのような役割を果たしているのでしょうか?

司法省の働きを細かく説明すると数時間必要になっちゃいますので、ざっくりとお話ししますね。そうにっこりと微笑んで説明を始めます。

「特徴の一つが、市民権ユニットです。米国内でヘイトや偏見が増加する中、州民に直接サービスを提供しているのは米国でも珍しい取り組みです。

現在、州司法省はヘイトから『バイアス犯罪 *』と呼び変え、さらに広範囲に活動を広げています。

バイアス犯罪とは、特定の人やグループに対する偏見から生じる犯罪です。たとえば、人種や性的指向、さらには宗教、趣味嗜好によって差別される事件がそれに当たります。

近年、市民権部門は偏見などの問題に対処するため、バイアス犯罪特別ホットラインなどを活用して解決に尽力しています。またこの取り組みは、国内外でも知られ評価されています。」

そのようなバイアス犯罪に対する強化の中、私たちが気にしているのはオレゴン州の安全性です。

では、その部分をさらに深く掘り下げてみましょう。

*【バイアス犯罪に関してのご相談】米国 1-844-924-BIAS (2427) 西海岸時間 月~金 9am-5pm StandAgainstHate.Oregon.gov

安全性が向上しているオレゴン州・・現在の懸念とは⁈

アメリカの都市部では、BLM運動以降、アジア系へのヘイト事件が続いています。さらに、コロナ禍後の経済回復の鈍化や物価の急上昇などが、暮らしと安全性に不安定な影響を及ぼしているのも事実。

さらに、日本同様、経済の厳しさや格差の拡大により、本人が望む生活水準には到達できず不安や焦りも広がっています。

「最新のオレゴン州のデータをみると、暴力事件は2021年に16.6%増加。そこから2022年には8.8%減少。財産犯罪も2.6%減少しています。」と次官。

とはいうものの、犯罪活動の実態を正確に把握することは難しく。多くの事件が報告されずに、加害者が特定されないケースも少なくありません。これも日本と同じです。

「行為を行う人に、その憎悪の源を尋ねてみる。すると、ほとんどの人が、なぜ有色人種やゲイの人々を嫌うのかを具体的に示せないのです。これが、事実に基づかないステレオタイプ思考が犯罪を繰り返す原因となっています。

人を憎む感情は人間の本質的な部分。しかし、それが嫌がらせや暴力行為に発展すると対処が難しくなります。

また、オンライン空間でも、偽情報や極端な主張が問題視されています。これらの情報に接することで、人々は無意識に洗脳され、さらなる暴力が生まれる可能性が高まるからです。

さらには、近年では暴力をゲームやスポーツとして捉える悪しき傾向も増加。許しがたい現実が広がっています。」

このように、市民の安全と寛容さの促進に心を砕いて取り組む一方。次官自身も、憎悪や偏見に苦しむことが多くあると話します。

「シビアな業務に携わっていますので、エネルギーを消耗しがちです。だからこそ、心理療法士と話し合い、心のバランスを取ることの重要性を実感しています。

とはいえ、市民の支えになれること。そして、省のチームと共に市民のために尽力し、支えになれることが最大の喜びです。

これまでに1万人以上の問題解決に取り組んできました。行政チームとの情報共有を通じて、犯罪被害者の新たなニーズや課題に効果的に対応できる体制を整えながら遂行しています。

私は、この仕事に使命感を持っている。だからこそ、継続して取り組むことができているのです。」

newsweekjp_20240430015025.jpgPhoto | Fay Stetz-Waters

必要不可欠な、現代社会におけるやさしさ・・とは

では、私たち市民として。今、州や国が直面している課題にどう向き合えばいいのでしょうか?

「憲法順守は重要です。でも今の時代にもっと必要なこと。それは、お互いの人間性を尊重し寛容であることです。

異文化や背景を理解し、差別や憎しみに反対する良き市民としての行動が一人ひとりに求められる時代になっています。」

さらに、次官はこう続けます。

「いじめと銃撃事件は人生の敵です。差別は、人種・性別・外見等に対して行われます。子供から高齢者まで被害に遭い、多くの人が自殺に至っています。

しかし、現行の行政システムだけでは、子供たちの発達中の脳に及ぼす精神的な影響に十分に対処することが難しい。そんな現実に直面しています。

ハラスメントやいじめを根絶し、他者への尊重と共同体の価値を高める必要性がさらに高まっています。より良い社会を築いていくためにも、より多くの『善なる市民』という意識と協力が不可欠なのです。」

最後にそっと、パーソナルな話をしてくれた次官。

「最近、義母が亡くなり心が痛んでいた時、彼女からもらった手紙を見つけました。そこには、友情とコミュニティーの大切さが綴られていたのです。

そこからインスパイアされ、実は今、パートナーと共に愛と思いやりを綴った小説を執筆中なんです。

そう穏やかに語る彼女の声は、優しさと情熱が満ち溢れていました。

newsweekjp_20240429223458.jpgPhoto | Fay Stetz-Waters

空気や水、そして安全。それらは、日本人にとって当たり前のように身の回りにあったものです。

そして今、私たちは改めてその重要性に気づかされています。

時代が移り変わっても、人権、社会、コミュニティーの核心は変わりません。それは、他者への思いやりと自分自身への尊重のバランスにあると感じます。

人生は、私たち自らの選択によって、形作られ彩られていきます。

心の平安と日々の営みを支えるため。あなたは、どんな価値観をこれから大切にしていきたいですか。

次回は、ポートランドのアップサイクルにフォーカス!持続可能、エシカル・・こんな言葉が定着してきた今。ポートランド流エコシステム・ブランドを紹介します。 5月下旬掲載です!

記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。
 

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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