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日本人コーヒー生産者が語るコロンビア

松尾彩香|コロンビア

コーヒー高値に幕?第90回コロンビアコーヒー国内会議

©️iStock - DINphotogallery

今年もコロンビアで毎年12月に行われるコーヒー国内会議(Congreso Nacional de Cafeteros)が行われました。

90回目の開催となる今年のスローガンは「私のコーヒーは高品質コーヒー。私の農園は生産性と持続可能性があり、将来は明るい」

去年同様に高品質と持続可能性をアピールしながら、ラニーニャ現象の影響を受けた生産量と価格の高騰を意識させるようなスローガンになっています。この会議ではコロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)とコロンビア政府が主体となって、一年の振り返りや今後の課題、解決策などが話し合われます。過去2回の開催はパンデミックの影響でオンライン開催されライブ配信も行われましたが、パンデミックが落ち着いた今年は通常開催され、関係者たちは生産地をまわりながら各地で様々なイベントが開かれました。去年一昨年の会議はオンライン開催のおかげで一般市民である私もライブ配信を通して様々な情報を得ることができていましたが、今年は文字でしか情報を得ることができなかったので少し残念です。

第88回第89回の会議のまとめは過去のブログを参考にしてください。

 

生産額は歴代最高額を記録

コロナウイルスによるパンデミックに始まりコーヒー生産大国ブラジルの大幅な生産量減少と、2年前からコーヒーの価格はこれまでにないほど高騰しました。UCC上島珈琲やキーコーヒーなどの日本の大手企業でさえもコーヒーの値上げを余儀なくされたことから、日本でもこの価格高騰を実感したという方は多いのではないでしょうか。コーヒーの販売価値が上がるということは、生産者側にとっては高く売れるということなので、コロンビアのようなコーヒー生産国にとってこの価格高騰は経済的に大きなプラスとなります。4年前に私がコーヒー栽培を始めた頃、125kgのコーヒーを売りに行くと大体いつも735.000ペソくらい(約2万円)で買い取ってくれていたのですが、この価格高騰によって今年の8月にはこのコーヒー125kgの買取値段が2.530.000ペソ(約7万2千円)にまで跳ね上がりました。この価格高騰のおかげで、コロンビアの今年のコーヒー生産額は14兆500億ペソ、さらに輸出額は38億米ドルと歴代最高額を記録し、今年も昨年同様にコーヒーがコロンビアの経済を後押しする形になったようです。

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©️YouTube - Luis Bairon Arcila - Héroes de la caficultura 2022

 

売るコーヒーがない

コーヒー価格が高騰する一方で、ラニーニャ現象の影響で28ヶ月続く長雨は多くのコーヒー農家にとって頭を悩ませる要素となりました。特に影響を受けたアンティオキア県では生産量が例年の50%にまで落ち込んでしまったという農家もいるほどで、価格が高騰している一方で売るコーヒーがないことに悩まされる農家も多くいたようです。生産額は歴代最高額を記録しましたが、今年の国内全体のコーヒー生産量は1170万袋(60kg/袋)と前年の1340万袋から12,8%減少する形で幕を閉じました。昨年も前年度から7%減少していることから、2年連続の生産量減少となってしまったようです。

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©️YouTube - Luis Bairon Arcila - Héroes de la caficultura 2022

  

ブラジルの生産量回復に備えろ

そもそもこの価格高騰を大きく後押ししたのばブラジルの干ばつと降霜による生産量の大幅な減少でした。この異常気象によって多くの木がダメージを受け、ブラジル国内では多くの農園で植え替えを余儀なくされたのです。植え替えた苗が実をつけ始めるまでに要する時間は約2年とされているので、これらの異常気象によって植え替えを行った農園は来年度には収穫を再開することができ、それがこれからの価格の動きに大きく影響してくることはほぼ間違いありません。FNCのロベルト・ベレス代表も「コーヒー市場価格の高値のサイクルが終わろうとしており、国際市場の動きが変わってきている」と今回の会議で発言していますが、確かに8月をピークに価格は下降を続けており現在では200万ペソ (約6万円)を超えることはなくなってきました。これから価格はさらに下降を続け、近い将来再び供給過多で価格が低迷することが予想されます。

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降霜によって枯れたコーヒーの木(ブラジル)©️YouTube - Super helada en Brasil 2021 vendrán precios mejores.

 

新政権とコーヒー

今年の8月にコロンビアでは新しい大統領が就任しました。就任したグスタボ・ペトロ大統領はコロンビア初の左派大統領となり、今までにない新しい政策を次々と進めています。この歴史的な政権交代は今後のコロンビアコーヒーにも様々な影響を与えるでしょう。

新しい政権になって初めてとなる今年のコーヒー国内会議には農業省と財務省の大臣も出席し、来年度に向けてのコーヒー産業の課題と支援についてなどが話し合われました。農業省のセシリア・ロペス大臣は国内のコーヒー農家の半分以上が貧困層であることを問題視し「輸出だけで年間40億ドルも稼ぐセクターで、何百人ものコーヒー生産者が不安定な状態で暮らしているのはありえない」として農地改革を含めた様々な支援を行うことを宣言しています。また財務省のホセ・アントニオ・オカンポ大臣は、コーヒー畑のリノベーションの促進やコーヒー基金の調達などについて会議で述べたほか、最近国交回復に向けて動き出したベネズエラが保有する肥料製造メーカー「モノメロス」の買収を検討していることを公表しました。コロンビアではこれまで技術的な理由から化学肥料をほとんど他国からの輸出に頼っていましたが、ロシアのウクライナ侵攻で肥料価格が著しく高騰し多くの農家の生活を苦しめており、それが買収に向けて話し合いを始めるきっかけとなったようです。また、コロンビアで栽培されるコーヒーのほとんどは風味が優れているとされるアラビカ種のコーヒーですが、オカンポ大臣は国内紛争地に住む農民たちの支援として病気に強く低地でも栽培できるロブスタ種の栽培を提案しました。しかしFNCの関係者からは「世界一まろやかなコロンビアコーヒー」の評判に傷がつくとしてあまり前向きではない意見が上がっています。

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©️YouTube - Magazín Cafetero Temporada 6 Capítulo 48 - 90 Congreso Nacional Cafetero

最後に、今回のコーヒー国内会議で1番のビッグニュースとなったのは何といってもコロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)のロベルト・ベレス代表の事実上の解任でしょう。駐日コロンビア大使館の大使の経験もあり日本にも馴染みが深かったベレス代表ですが、12月1日に政府から辞任をするようにと電話で要請を受けたそうです。現地の状況を正確に把握し、生産者たちの苦労をよく理解していた代表だったため関係者から高い信頼を得ていたリーダーでしたが、ここで7年のキャリアに幕を下ろすことになりました。政権が変わり、FNCの代表が変わって迎える2023年。乗り越えなければいけない壁や課題はたくさんありそうですが、54万世帯のコロンビアコーヒー農家さんに心からのエールを送りたいと思います。

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ベレス代表の辞任会見©️YouTube - ROBERTO VÉLEZ EXPLICA POR QUÉ RENUNCIÓ A LA FNC - VIERNES 2 DE DICIEMBRE DE 2022
 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

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