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人情味の溢れる台湾で暮らす日々

河浦美絵子|台湾

改名で運気アップ。人生で3度改名できる台湾

改名したいと思ったことがありますか?(Photo by iStock)

生まれてから当たり前のように自分の名前があり、それを使って今も生活している。

両親や祖父母が自分の誕生を喜んで、大切に選び、付けてくれた名前である。
友人に可愛い名前の子がいて「いいな〜」と思ったことは何度かあるが、さすがに今まで一度も、本気で名前を変えようと考えたことはない。

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生まれた時からの長い付き合いの名前(Photo by iStock)

しかし、世の中には「名前が好きになれない」「字画をみてもらったら良い運勢ではなかった」といった様々な理由などから、改名を希望する人もいる。

日本では『戸籍法107条の2(氏名の変更)』「正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない」とあり、改名は可能であるが、なにやら手続きなどが大変そうであるし、実際、私の周りに改名をした日本人の知り合いは一人もいない。

■3回まで改名ができる台湾

だが、台湾に住んでみて驚いたのは改名をしている人が非常に多いことだ。

身近にも改名している友人が何十人もいる。「私は親が1回変えて、自分でも2回変えてるよ」などと言う友人もいるから驚く。そんな友人たちに聞いた改名の理由のほとんどが「運気アップのため」である。

台湾では日常の中に「算命(運命をみてもらう)」「風水」を身近に取り入れている人が多い。出産や子供の名付け、引っ越し、結婚、起業などの大きなイベントの時にはもちろん、自分が選択を迷った時、運気があまり良くない時などにも算命師や風水師に見てもらう。その時に「名前を変えたほうがいい」と言われることも多いという。

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運気アップのために改名(Photo by iStock)

■どのぐらいの人が改名しているのか

では、台湾ではどのぐらいの人が改名しているだろう。

調べてみると少し古いけれど2017年に内政部統計處が発表しているデータがあった。
2010年〜2017年までの7年間に改名した人の人数は82万634人(https://www.moi.gov.tw/cp.aspx?n=3864)。年間に約10万人以上が改名している計算になる。

台湾の名前に関しての法令には、1953年に制定された『姓名条例』がある。当初、改名の回数は2回までとされていたが、2015年、2回だけでは不便だという国民の不満が多かったために改名回数が3回までと修正された。

■改名が認められる理由

『姓名条例』9条には改名が認められる理由が書かれている。

(1) 公的機関、施設、組織、学校や職場で同姓同名の人がいる場合
(2) 三等親以内の直系に同姓同名の人がいる場合
(3) 6カ月以上戸籍を置いている市や県に同姓同名の人がいる場合
(4) 指名手配の犯人と同姓同名の場合
(5) 認知や養子縁組に関係する場合
(6) 「名前の意味が下品、卑猥である場合」「名前が過度に長い場合」「その他、特別な理由がある場合」

■台湾で起きた改名騒ぎ「サーモンの乱」

2021年3月。台湾で「サーモンの乱」と呼ばれるようになった改名にまつわる一騒動あったことは、世界中のメディアでも取り上げられたのでご存知の方も多いだろう。

台湾に店舗を展開している日系の寿司チェーン店が「鮭魚」の2文字と同音同字が名前にあれば、同伴者も含めて食事代を無料にするというキャンペーンを打ち出した。

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寿司代を無料にするために「鮭魚」に改名する人が殺到(Photo by iStock)


このたった2日間のキャンペーンの「無料の寿司代目当て」に改名する若者が役所に殺到したのだった。その数は330人以上。多くの若者が「鮭魚」に改名した事実も話題となった。

しかし、それ以上に、改名した者が「無料の寿司を食べたらまた元に戻します」と言っていたり 、「陳愛台灣鮑鮪鮭魚松葉蟹海膽干貝龍蝦和牛肉美福華君品晶華希爾頓凱薩老爺」と自分の好きなものを並べた長い名前に改名したりと、改名を軽視していることに対する批判の声も多く挙がったことも注目された。

また、「鮭魚」という名前に改名したものの、改名回数を過ぎており、名前を戻せなくなるケースも取り上げられ、容易に名前を変えられる法律を改正すべきでは、というところまで論議は及んだ。

■改名の現場に密着

それが、今回、改名するという友人がいたので、その手続きに同行させてもらった。

改名する場合は戸籍の管理を専門とする戸政事務所(日本の区市役所のような窓口)へ行く。予約などは特に必要がなく、窓口で「改名したいです」といえば改名申請用紙をくれる。その用紙へ改名前の名前や改名後の名前を記入したり、改名する理由を選ぶ。想像していたよりも簡単だ。

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(筆者撮影)結婚、離婚、改名、戸籍に関する届けの窓口「戸政事務所」事務所の許可を得て撮影

友人の場合、3年前に新しい事業を起こすために算命に行ったところ
「今の名前では新しい事業には向いていない。名前を変えたほうがいい」と言われ改名した。

しかし新型コロナの影響もあり、新しい事業は残念ながらうまくいかず、改名前の名前に戻すための2度目の改名だった。

窓口では「商売、うまくいかなくなったので、元の名前に戻します」と説明しただけで、特に問題なく、手続きが進められた。

詳しく調べるのは犯罪歴などだそうだ。指名手配中、拘留中、有罪の判決が確定していたり、執行猶予中の場合の改名申請は却下される。

そして、待つこと40分ほど。窓口の担当者から「はい、確認もできました。改名に問題ありません。以上です」と告げられた。
改名手続き自体の費用は無料である。但し、新しい身分証への変更手続きが50元、戸籍の名前変更手続きに30元が必要。たったの80元(約320円)で友人の改名手続きは無事に終了した。

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(筆者撮影)戸籍の改名も簡単に終了


ちょうど友人が改名手続きを行っている、その隣には、結婚の手続きに来ていた台湾の若いカップルがいた。戸政事務所の一部には記念写真が撮れるコーナーが設けてある。あまりに幸せそうな新婚カップルだったので、私も一枚、記念撮影をさせてもらった。

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(筆者撮影)戸政事務所に結婚届を提出に来ていた台湾の新婚カップル


新型コロナの流行で台湾の景気も影響を大きく受けている。ここ数年は改名をする人数が非常に増えていると戸政事務所の窓口の方が教えてくれた。

改名で元の名前に戻った友人。改名で運気アップを願う人たち。これから新しい生活を営んでいく若いカップル。皆に幸せが訪れますように。

 

Profile

著者プロフィール
河浦美絵子
台湾在住20年目。40歳から台湾の大学院で台湾の教育史を研究し、その後、現地の企業に就職。永住ビザ取得。台湾生活の記録として2006年から始めたブログから人脈が広がり、日本の新聞や雑誌、ウェブサイトで台湾情報の記事を執筆するようになる。また、台湾企業へのアドバイザーや日系企業からの台湾市場調査などを請け負う。趣味は旅行と食べ歩き。台湾での毎日の日常を個人のブログで発信している。

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