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人情味の溢れる台湾で暮らす日々

河浦美絵子|台湾

物価上昇の波は台湾の庶民を支える「自助餐」にも

Photo by iStock

■物価上昇が止まらない台湾

台湾の行政院主計總處が6月7日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.39%の上昇で、10年前の2012年8月の3.42%以来の最高を記録。2021年7月から10カ月連続でインフレ警戒ラインの2%を超えている。

これは国際的な石油価格の高騰に加えて、野菜、果物、外食、肉類、家庭用品、家賃の値上げが主な要因であるが、前年同月比の実際の数値を見てみると、野菜は22.12%増、果物は16.55%増、水産物は7.23%増、外食は5.80%増、で食品カテゴリの物価上昇が止まらない。

台湾の日常生活の中でも「価格を調整しました」という張り紙をよく見かけるようになった。庶民の台所である「伝統市場」で買い物をしていても、「この野菜がこの値段?」と驚くことも少なくない。会計時の合計金額に「台湾、物価が高くなっている・・・」ことを身を以て感じている。

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筆者撮影:庶民の台所を支える伝統市場の買い物風景



■台湾の庶民食堂「自助餐」

そんな物価上昇、特に食品の値上げが止まらない台湾ではあるが、台湾の人たちのエネルギーの源になっているのは「食べる」ことだ。台湾の北から南まで、早朝から深夜まで、とにかく食べることには不自由しない。外に出れば何かしらの食べ物にありつける。

「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」ではなく、「ごはん食べた?」が日常会話の中で1番多く交わされている挨拶の言葉ではないだろうか。

そんな食に熱い人たちが暮らす台湾に根付いた庶民食堂がある。それが「自助餐」である。台湾の街を歩けばあちこちでこの「自助餐」の三文字を書いた看板を目にするだろう。

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筆者撮影:台湾の街で見かける「自助餐」の看板



「自助餐」という中国語は英語や日本語では「buffet」「ビュッフェ」と訳されることが多いが、台湾式「自助餐」は単なる料理の食べ放題ではない。

店によって規模や料理の種類こそ違うけれど、どこも台湾の家庭で出てくるような熱々の惣菜が種類豊富に並べられている。それを自分で器に取り、店の人に計算してもらい料金を支払うシステムだ。

24時間営業の店もあれば、昼食、夕食の時間帯だけオープンする店もある。

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筆者撮影:できたての熱々の惣菜おかずが並ぶ自助餐。種類も非常に豊富である。

特に夕食時ともなれば老若男女、すごい混雑である。店内で食べる場合には店の皿に、テイクアウトの場合には用意された紙の弁当箱に好きな惣菜をどんどんと入れていく。最近は衛生を気にしてか、自分の食器や弁当箱を持参している客も多く見かける。

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筆者撮影:「今日はどれにしようか」と惣菜を取る客たち


食材も肉、魚、緑黄色野菜、きのこ類、豆腐等、バラエティに富んでいる。調理方法も焼き、揚げ、炒め、蒸しなどがあり、味付けも様々だ。主食ももちろん用意されていて「白米」「玄米」「お粥」などから選ぶことができ、スープ、味噌汁は飲み放題の店が多い。

肉や魚の主菜に、数品の惣菜を「お一人様分」皿に取っている男性客もいれば、家族用なのかいくつかの惣菜を数人分、多めに取っていく主婦らしき女性もいる。

少子化、高齢化、核家族化が進み、共働きの家庭が多い台湾では、この「自助餐」は一家の台所の役割を果たしているところも大きいのだ。

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筆者撮影:肉料理、魚料理、豆腐料理、野菜料理、台湾の家庭料理が楽しめる自助餐



「自助餐」では料理を取ることだけではなく、入店からすべてがセルフサービスである。店内で食べる場合も、席は自由、食べ終わった後の食器は指定の位置に片付けなければならない。

だいたいの店にテレビが設置してありニュースなどが流れている。それを観ながら食べている人が多い。

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筆者撮影:自助餐で食事をするのは一人客の割合が多い。年配客の比率も高い。



「自助餐」ではメニューはなく、一つ一つの惣菜に値段は表示されていない。惣菜を載せた皿か弁当箱を店のレジに持って行き、スタッフに見せて言われた値段を支払う。惣菜の種類で計算をする店と、重さを計るお店とがあるが、その内訳は会計の時に特に明らかにはされない。客側もいちいち「これがいくら?」等と聞いていることもない。ある意味、店と客の信頼関係で成り立っている会計システムである。

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筆者撮影:料理があっという間に売り切れになる人気店


但し、肉や魚の主菜は、他の惣菜とは違い、一匹、一品で値段が決まっている場合が多く、その値段は平均して30~50元である。主菜を多く取ればかなりの金額になるので注意・・・といっても「自助餐」では、ひとり100元ちょっともあればお腹がいっぱいになる。

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筆者撮影:焼魚だけでも数種類が並ぶ自助餐

実際に「自助餐」で私が買ったテイクアウトの弁当である。魚のソテー、豆腐料理、しらす和え、ニガウリの炒めものなど、弁当箱はずっしりと重い。これに玄米を付けて会計が110元。いつもに比べて若干割高になってしまったのは、主菜で選んだ魚が大きめだったからである。それでもスターバックスのアイスラテ一杯(150元)よりも安いのであるから、庶民の味方「自助餐」なのである。

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筆者撮影:種類が多い惣菜から自分の好物を色々と選ぶのも楽しい「自助餐」

但し、前述にあるように、春先に長雨が続いたこともあり最近の野菜の価格高騰が著しい。その波は「自助餐」にも忍び寄っていることは間違いない。昔から変わらずに台湾の庶民の支えてきた「自助餐」。その形を変えずにいて欲しいと願わずにいられない。

 

Profile

著者プロフィール
河浦美絵子
台湾在住20年目。40歳から台湾の大学院で台湾の教育史を研究し、その後、現地の企業に就職。永住ビザ取得。台湾生活の記録として2006年から始めたブログから人脈が広がり、日本の新聞や雑誌、ウェブサイトで台湾情報の記事を執筆するようになる。また、台湾企業へのアドバイザーや日系企業からの台湾市場調査などを請け負う。趣味は旅行と食べ歩き。台湾での毎日の日常を個人のブログで発信している。

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