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イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

夢見るんだ、若者よ、夢を見ろ - 時代と世代を超えて生きる勇気贈るサンレモ音楽祭

引用元”:https://www.open.online/2024/02/09/sanremo-2024-alfa-roberto-vecchioni-duetto-video/

 すばらしい歌や感動の多かった今年のサンレモ音楽祭で、最もわたしの心に残ったのは、かつて高校で教え、シンガーソングライターであると同時に作家、詩人でもあるロベルト・ヴェッキオーニ(Roberto Vecchioni)が、カバーの宴(serata delle cover)だった4日目の晩に、若手歌手アルファ(Alfa)に招待されて、二人いっしょに自身の歌、「Sogna ragazzo sogna」を歌ったときです。以下の文章で引用しているイタリア語の歌詞は、わたしが受け取って感じた印象をもとに、訳してご紹介しています。

 目を閉じて、自分の中に見えるものだけを信じるんだ/若者よ、こぶしを握りしめろ/一瞬たりとも降参するな(中略)

 夢見るんだ、若者よ、夢を見ろ/1行たりとも自分の歌を変えたりするな/駅に停まる電車を後にするな/立ち止まるんじゃない

 1999年に当時33歳だったヴェッキオーニが、かつて少年だった頃の自分とすべての若者に贈った、若者たちへの人生の応援歌であるこの歌を、23歳の出場歌手、若いアルファが選び、ヴェッキオー二にいっしょにうたってほしいと頼んだこと。ヴェッキオーニが、歌うアルファを温かな眼差しで見守る姿。夢追う限り人は若いのだとすれば、若者だけではなく、すべての人に捧げられたとも言えるこの歌が、世代と時代を超えて受け継がれ、生まれ育った時代の違う二人が声と心を合わせて歌う。それが、今年第74回を迎えたイタリア歌謡曲の祭典、サンレモ音楽祭の真髄を象徴しているようにも感じました。

 統計によると、現代に生きるイタリアの若者は、かつての若者に比べて、将来に対してかなり悲観的であるということです。現代の若者は、新型コロナウイルス感染症感染拡大を防ぐためのロックダウンを多感な時期に経験し、相次ぐ世界紛争のニュースを目にする機会も多く、さらに大学を卒業してもイタリア国内ではいい仕事が見つからず、よい将来や待遇を求めて国外の大学や職場に流出せざるを得ないことも多く、そういった現代の世相や状況が、その理由ではないかと考えられています。

 今年のサンレモ音楽祭は、そういう時代と状況であるからこそ、例年にも増して、人々に愛や夢、希望を伝え、考えさせる歌や場面が多かったのですが、アルファ自身の今年の参加曲、「Vai!」もまた、どこか西部劇を思わせるような軽快なメロディーと共に、「前を向いて進んでいこう」と歌っていて、ヴェッキオーニの歌に通じるものがあります。

 ぼくはただ生きたいだけだ/泣きたいし笑いもしたい(中略)/後ろをふり返るんじゃない、先へと進むんだ

 感動する場面やすばらしい歌は他にもあったのですが、わたしにはこのアルファとヴェッキオー二が共に歌った歌に殊更に感動しました。後日、さまざまな人の意見や感想を聞いたり読んだりして、そう思ったのがわたしだけではなく、他にも大勢いることを知って、うれしく感じました。

 「今年のサンレモ音楽祭でも、皆さんの人生を変える歌や、日々の暮らしの一部となるような歌に出会うことでしょう」と、サンレモ音楽祭の初日には、昨年優勝したマルコ・メンゴーニが冒頭で語っていました。その言葉のとおりに、今年のサンレモ音楽祭を通して、新しい歌ばかりではなく、このヴェッキオーニの歌のように、あるいは、日本では「夢みる想い」という題で知られる、ジリオラ・チンクエッティ(Gigliola Cinquetti)が歌った1964年にサンレモで優勝した曲、「Non ho l'età」のように、かつての名曲も、多くの人々の心や日々の暮らしの中により浸透していくことでしょう。

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

Twitter@naoko_perugia

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