コラム

広島G7サミットで日本が失ったものは何か

2023年06月02日(金)19時30分

中国が「中国・中央アジアサミット」を行った意図にまんまとハマった

今回、日本は広島G7サミットで多くのアジア諸国に対してリベラルな欧米先進国の一員であることを高らかに宣言した形となってしまった。岸田政権はG7の中で唯一欧米諸国とは異なる立場でグローバルサウスの国々に接することができるポジションを自ら放棄したと言えるだろう。

広島G7サミットの裏舞台として、日本は中国が「中国・中央アジアサミット」を行った意図にまんまとハマってしまった。

一見すると、中国が広島G7サミットの派手なパフォーマンスの後塵を拝したように見える。しかし、実際には中国は今後欧米のリベラルな価値観についていけないグローバルサウスの国々の取り込みを容易に進めることができるようになったのだ。なぜなら、G7唯一のアジア参加国である日本が欧米のリベラルな価値観に明確に再コミットする愚を犯したからだ。

グローバルサウスの国々にとっては自分たちに価値観を押し付けずに話せる経済大国の存在は貴重だ。岸田政権はグローバルサウスの国々から価値観が異なる欧米諸国との仲介を期待する淡い期待を袖にしてしまった。中国は日本が下手を打ったことで、その地位を改めて確かなものにしたと言えるだろう。

アメリカ・共和党にとっては受け入れ難い内容が多い

さらに、最悪なことは、今回の広島G7サミットで岸田政権がコミットしたリベラルな諸目標は、来年のアメリカ大統領選挙・連邦議会議員選挙次第で、全て雲散霧消する可能性があることだ。

米国の選挙の見通しは、バイデン政権・民主党にとっては決して良好なものとは言えない。共和党大統領・共和党上下両院多数が達成される可能性は十分にある。

今回、広島G7サミットで岸田政権がコミットした内容は、あくまでバイデン大統領・民主党のものでしかなく、同じアメリカでも共和党にとっては受け入れ難い内容が多く含まれている。そのため、2年後のサミットでは多くの内容が反故になることが想定される。

現在のアメリカは選挙次第で180%外交方針が変わるジキルとハイドのような国柄になってしまっている。したがって、時のアメリカ政権の言うことに唯諾々と追従するのではなく、自国がどのような強みを持って行動して勝ち抜くか、を考えることは必須だ。

たとえば、筆者は日本が誇る高効率の石炭火力発電所の新設を改めて否定する今回のコミュニケには失望した。現在の国際環境かつ共和党復権見通しに鑑みれば、あえて国際的なポリコレを礼賛して日本の産業を潰す愚行をするべきではなかった。(グローバルサウスの国も現実的な電源として石炭火力を望んでいる。)

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:自動車業界がレアアース確保に躍起、中国の

ワールド

アングル:特産品は高麗人参、米中貿易戦争がウィスコ

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story