最新記事
宗教

十字架とカネと票 ── 旧統一教会から広がる韓国「教団=小財閥」の構図

2025年9月30日(火)08時31分
佐々木和義

まるで不動産投資のような新興宗教

韓国では統一教会以外にも2020年3月に新型コロナウイルスの最初のクラスターとなって教祖が逮捕された新天地教会や、同じくクラスターとなったサラン第一教会、キリスト教福音宣教会(JMS)などキリスト教系の新宗教が少なくない。ただ、これらの教団は最初から独自の教義をもっていたわけではないという指摘もある。

ある韓国人によると、若い牧師が親類縁者などから資金を集めて小規模教会を開設し、信者が増えるとその教会を売却してより大きな物件を購入して移転、さらに信者を増やして大きい教会に買い換える「教会ビジネス」が行われているという。信者数が数千人から数万人に達する大規模教会が売りに出ることはなく、ある程度の規模になったら新興教団を創設するのだ。

サラン第一教会の創設者も、1983年に神学校を卒業すると東大門区の商店街で13坪の部屋を借り、1985年に近隣のより大きなビルに移転、1995年に現在の礼拝堂を買い取った。

信者から集めた資金で非課税の商売を行う教会もある。キリスト教会が所有する賃貸住宅に居住していたある家族が、家主である教会から退去か入信の二択を迫られた。入信したら謝礼金を支払うという話で、家族が入信を拒否したため世帯主が入信、多額の謝礼金を受け取ったという。入居者の一定数が信者なら不動産経営を宗教活動と主張できるからだ。収益事業とみなされて課税されるより、謝礼金を払ってでも信者になってもらう方が得策と考えたのだろう。

朴正熙の頃から政教の蜜月が......

韓国最大の汝矣島純福音教会(信者数56万人)は、単一のプロテスタント系教会として世界最大の信者数を誇り、ホームレスや独居老人、心臓病の子供などへの支援活動を行なっている。教団本部は国会などのある韓国政治・経済の中心地・汝矣島(ヨイド)に位置するが、これは1968年、当時のソウル市副市長だったチャ・イルソク(同教会の信者)の関与で移転が実現したとされる。

当時の朴正熙(パク・チョンヒ)大統領が、漢江(ハンガン)の中洲に過ぎなかった汝矣島をソウルのマンハッタンにしようとした再開発計画に呼応する形で、教団はソウル市から土地を購入。教団本部の背後にマンションを建設し、その分譲収益を教団本部の建設資金に充当した。

以上、見てきたように、韓国の政界と宗教界は歴史的に密接に結びついてきた。今回の韓鶴子総裁逮捕で特別検察が政教癒着の実態にどこまで切り込めるか、また総裁が逮捕された統一教会がどうなるか、捜査の行方とその後の動向が注目される。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中