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日本の警察による「捏造」と「拷問」に迫った袴田事件のノンフィクション

2024年11月30日(土)17時50分
印南敦史(作家、書評家)

逮捕当日の取り調べは13時間8分、便器は部屋に持ち込まれた

例えば、静岡県警清水署の捜査本部は、国道を通る車の騒音が絶えず、冷房設備もない蒸し風呂のような六畳間ほどの取調室で袴田さんをとことん追い込む。

逮捕当日の1966年8月18日は、食事時間を除き取り調べは13時間8分に及び、翌日以降も午前8時半ごろから午後11時まで連日12時間を超えたという。しかも、深夜に留置場に戻ってからも疲れを癒すことはできなかったようだ。


「留置場に戻されまして、床につくんですが、かわるがわる酔払いを連れてきまして、隣の部屋に入れまして、それが一晩中騒いでいるんです。どなったり、叩いたり。それが、清水の留置場は地下みたいなところで上までがんがん響いて寝られる状態ではないです」(35ページより)

こうした状況での取り調べが連日続けられる一方、弁護士による接見は全3回、計32分しか認められなかったという。逮捕された容疑者には弁護士など外部の人間と面会できる権利(接見交通権)があるはずなのに、である。袴田さんは孤立無縁の状態で、強大な力を持つ捜査機関と対峙することになっていたのだ。


取り調べは過酷さを増していった。九月四日には、袴田さんが「小便に行きたいです」と訴えても、取調官は「返事をしなさい」と言って取り合わなかった。しばらくして便器を部屋に持ち込み、袴田さんはようやく用を足すことができた。この日の取り調べは、実に十六時間二〇分に及んだ。(37ページより)

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