最新記事
ロシア

「最期まで諦めない」ナワリヌイだけではない、ロシアの反体制派に受け継がれる信念

It Wasn’t Just “Courage”

2024年2月27日(火)20時30分
エミリー・タムキン

240305P34_NWN_03.jpg

カラムルザはプーチンを批判して国家反逆罪で服役 MAXIM SHEMETOVーREUTERS

英雄たちの後継者として

そして今、ある意味で10年前には思いもしなかったことが明らかになった。

時代や当時の反体制派との違いはあるが、ナワリヌイは精神的英雄たちの後継者なのだ。

彼らのように勇敢だというだけではない。

ナワリヌイもまた、より安全な選択肢が存在するにもかかわらず、自分がしていることを唯一の選択肢として語っていた。

ロシアの反体制派の伝統を受け継いでいるのは、ナワリヌイだけではない。

昨年4月に禁錮25年を言い渡されたジャーナリストで反体制活動家のウラジーミル・カラムルザは、ソ連時代の政治的抑圧の犠牲者を悼む「政治犯の日」にちなんで「10月30日財団」を設立し、現代の政治犯の家族を支援している。

13年に死去した詩人のナタリア・ゴルバネフスカヤのことは、ナワリヌイもNYTのインタビューで言及している。

彼女は1968年にソ連主導のチェコスロバキア侵攻に抗議して、赤の広場で数人の仲間と共に、「あなたたちと私たちの自由のために」などの横断幕を掲げた。

69年に逮捕された際は、刑務所の精神科病棟に送られて拷問を受けた。

「チェコとスロバキアの人々のために、というのは2番目の理由だった」と、ゴルバネフスカヤは12年にパリの自宅で振り返った。

「私たちは何よりもまず、自分のために抗議を行った」。人間は人間らしくあらねばならないのだからと、彼女は説明した。

共に赤の広場に立ったウラジーミル・ドレムリュウガも、同様の思いを口にした。

「物心ついてからずっと、私は市民でありたいと願っていた。市民というのは、思うところを堂々と冷静に表現する人間のことだ。赤の広場に立ったあの10分間、私は市民だった。一緒に抗議を表明する人がいてくれてうれしかった」

活動家の夫ボリスに先立たれたリュドミラ・バイルは、13年にデンマークの首都コペンハーゲンで「活動家たちは赤の広場で思いを遂げられたかって?」と、私に問いかけた。

「答えはノー。でも彼らは彼らにできることをした。やらなれけばならないと思うことをした」

NYTのインタビューで、ナワリヌイはソ連時代の活動家にはできなかったやり方で体制を変えたいと述べた。

だが彼の書いた文章、発した言葉には、先人と同様に勇気だけでなく祖国と良心に対する責任感がうかがえる。

13年には週刊誌ノーボエ・ブレーミャ(新時代)に寄稿し、こうつづった。

「私は自分がしてきたことを高く評価しており、投獄が迫っているからといって立場を変えるつもりはない。私は自分でこの道を選び、信頼してくれる人々に対して責任を引き受けた。何が待ち受けているかは分かっていた」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中