最新記事
ウクライナ戦争

モスクワを攻撃されても事を荒立てたがらないプーチンの秘密とは?

Why Putin is Downplaying Moscow Drone Strikes

2023年6月1日(木)19時07分
デービッド・ブレナン

モスクワ住宅地へのドローン攻撃に生ぬるい反応を見せたプーチン(5月30日) Sputnik/Gavriil Grigorov/Kremlin/REUTERS

<報復攻撃を求めて熱くなっている国内タカ派を、プーチンはこれ以上刺激したくない。ロシアには有効な報復手段がないからだ>

首都モスクワで5月30日早朝に起きたドローン攻撃について、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「テロの兆候だ」と非難はしたが、事を荒立てないよう努めていると、米シンクタンク・戦争研究所(ISW)は指摘した。大規模な報復攻撃を求める声が上がるなか、決め手となる報復手段がないからだ。

【写真】「攻撃の標的?」「いたずら?」 憶測を呼ぶモスクワ市内の「謎の赤いバツ印」

ロシアはこのドローン攻撃をウクライナ軍によるものと発表したが、ウクライナ側は否定している。プーチンは長引く戦争に疲れた世論の支持をつなぎ止めようと、首都攻撃に際しても毎度お決まりのプロパガンダを繰り返したと、30日夜に発表されたISWの報告書は述べている。

今回のドローン攻撃では、少なくとも3棟の集合住宅が被害を受けたが、負傷者は確認されていない。ロシア政府の発表によると、8機のドローンが首都に飛来し、うち5機を撃墜、残り3機も電子システムによる迎撃でコースを外れたという。ロシアの複数のブロガーが、30機ものドローンが攻撃に加わっていたと示唆しているが、そうした情報は確認されていない。

ISWによると、今回のプーチンの対応は、彼が置かれた政治的立場の危うさをうかがわせる。

報復したくてもできない

「ウクライナに報復しようにも手段は限られている。プーチンがドローン攻撃を大ごとに見せまいとしたのは、その事実を世論に知られたくないからだ」と、ISWは分析している。

プーチンはまた、今回のドローン攻撃はロシア軍が数日前にウクライナ軍の情報本部に行なったミサイル攻撃への報復だと述べたが、ISWによれば、ロシア国防省の作戦行動報告にはそうした攻撃は記録されていない。本誌はこの件について同省にメールで問い合わせ中だ。

「ウクライナはロシアを挑発し、お返しに自分たちと『同じことをさせようと』している」とプーチンは語り、「これまでにも現在も行っているミサイル攻撃を強調した」と、ISWの報告書は述べている。「ロシアは既にウクライナを十分懲らしめているのだから、ウクライナの挑発に乗って新たな攻撃を行う必要はないと、世論に訴えようとしたのだろう」

「ウクライナ側が自軍の攻撃と認めているものもそうでないものも、攻撃があるとプーチンは、毎回判で押したように大規模なミサイル・ドローン攻撃で報復するよう命じてきた。裏を返せばそれは、ロシア軍には戦場で敵に決定的な打撃を与える能力がない、ということを物語る」

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インタビュー:経済対策、補正で20兆円必要 1月利

ワールド

ドイツ財務相「貿易競争には公正な条件が必要」、中独

ワールド

韓国、北朝鮮に軍事境界線に関する協議を提案

ビジネス

英生保ストレステスト、全社が最低資本要件クリア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中