最新記事

ウクライナ情勢

ヘルソン撤退で「領土割譲の禁」を破ったプーチンの重罪

Putin abandoning Kherson is one of his most embarrassing setbacks yet

2022年11月10日(木)15時21分
ゾーエ・ストロズースキ

ナチスとの戦い前に「赤の広場」で行った1941年の革命記念パレードの展示を見るプーチン(11月8日) Sputnik/Aleksey Nikolskyi/Kremlin/REUTERS

<ヘルソン撤退はミサイル巡洋艦「モスクワ」を沈められたとき以来の深刻な打撃をロシアに与えるだろう>

ロシア政府は11月9日、ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソン市とその周辺地域から部隊を撤退させると発表した。軍事侵攻を開始してから8カ月になる戦闘で、この戦略的要衝からの撤退は、ウラジーミル・プーチン大統領にとって大きな痛手だ。

セルゲイ・ショイグ国防相は、軍事侵攻の指揮を執っているセルゲイ・スロビキン総司令官の提言を受けて、撤退の決断を下したと明らかにした。これによりロシア軍の各部隊は、ヘルソン市からドニプロ川の東岸地域に撤退することになる。既に撤退が完了しているのかどうかについては、明らかになっていない。

ワシントン・ポスト紙によれば、スロビキンは9日にテレビで放送されたコメントの中で、「ドニプロ川の東岸地域を防衛するという決断は簡単なものではなかったが、これによって兵士たちの命と部隊の戦闘能力を守ることができる」と述べた。

ヘルソン市は、プーチンが2月24日に軍事侵攻を開始した直後に掌握した戦略上の要衝であり、ロシア軍がウクライナで掌握した唯一の州都だった。ロシアが9月末に一方的に併合を宣言した4州のうちの一つであるヘルソン州の州都からの撤退は、とりわけ重大な意味を持つ。

苦戦を認める決断

ウッドロー・ウィルソン国際研究センター/ケナン研究所のウィリアム・ポメランツ所長は本誌に対して、9月末の併合によりヘルソンは恒久的にロシアの領土であると宣言されたのに「2カ月も経たないうちに手放すことになった」と語った。

ウクライナと西側諸国の指導者たちは、ロシアによる4州の併合について繰り返し「違法」だと非難してきた。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は9月末、ロシアが4州を一方的に併合しても、ウクライナにとっても世界にとっても「何も」変わらないと述べていた。ロシアによる4州の併合宣言の後、ウクライナ側はヘルソンをはじめとする複数の地域で、ロシア軍に掌握された地域の奪還を目指して反転攻勢を続けていた。

ポメランツは、ヘルソンからの撤退は厳密に言えば、ロシアが2020年の憲法改正で定めた「領土割譲の禁止」に違反すると説明。「プーチンは自らその禁を犯し、併合した領土を自らウクライナに返還する判断を下した」と述べた。また彼は、これはプーチンにとって「きわめて重大な敗北」だとの見解を示し、撤退は「ウクライナでの戦争が順調に進んでいないことをロシアが認めた数少ない例の一つ」だと指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中