国策としての「標的殺害」を行うイスラエル、外交上に本当に有益なのか?
ISRAEL'S CHOICE WEAPON
組織崩壊を目指す必殺作戦
権限や知識が少数の者に集中する非民主的な政府やテロ組織では、そういう急所が二重にも三重にも重い意味を持つ。1995年10月にパレスチナの武装組織「イスラム聖戦」は、創設者ファトヒ・シカキを殺されて壊滅的な打撃を受けた。
96年1月には爆弾作りの名人として「ジ・エンジニア」と呼ばれたイスラム原理主義組織ハマスのヤフヤ・アヤシュが殺された。ハマスにとってはかけがえのない貴重な才能が奪われたのだ(当然、報復は迅速かつ痛烈だった。4回にわたる自爆テロで民間人多数の命が奪われた)。
こうした標的殺害は、実は数え切れないほど行われている。11人のイスラエル人が殺された1972年のミュンヘン五輪「黒い9月」テロ以降、イスラエルはその実行犯と指導者を消すために全力を挙げてきた。逃げおおせた者はほとんどいない。
イスラエルの仇敵ハマスの創始者アハメド・ヤシンも逃げられず、04年にミサイルで殺された。後継者のハリド・マシャアルも殺されかけた。このときは毒殺の予定だったが、事前に発覚し、実行犯はヨルダン警察に捕らえられた。その釈放と引き換えに、イスラエルは解毒剤を提供することになった。
一方、アメリカがテロ組織と指定するヒズボラ(レバノンの有力な政治団体)の幹部イマド・ムグニアは、08年にシリアで殺害されている。
こうした国家的な暗殺を自著で暴いたイスラエルのジャーナリスト、ロネン・バーグマンによれば、この国は建国以来の約50年で500件、それ以降の20年で少なくともその3倍の暗殺を実行している。
実際、この作戦の成功率は高い。だからイスラエル政府は、イランの核開発計画に関わるトップクラスの人物だけでなく、実務レベルの人物まで「標的」にしている。
言うまでもないが、標的殺害をやっているのはイスラエルだけではない。「暗殺」という手法を表向きは否定しているアメリカも、主として高性能な無人攻撃機を利用して無数の殺人を実行している。
11年にパキスタンでウサマ・ビンラディンの隠れ家を急襲したときも、たとえビンラディンがその場で降伏しても、迷わず射殺していたに違いない。
モラルよりも目先の効果
かくして標的殺害は政治の道具となった。なぜか。それが有効で、一定の効果は期待できるからだ。敵国の重要な計画の遂行に不可欠な人物を消せるからだ。