最新記事

中国軍事

「ロシア軍化」の病理──ロシア軍と中国人民解放軍の「共通の欠点」とは?

UKRAINE WAR LESSONS

2022年6月14日(火)14時25分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)
人民解放軍

モスクワの赤の広場で開かれた軍事パレードに参加する人民解放軍の兵士たち(2020年) Host photo agency/Ramil Sitdikov via REUTERS

<腐敗の蔓延、縁故支配、実戦経験不足......。両軍には驚くほど多くの共通点があるが、一番の問題とは何か?>

ウクライナ戦争の出口は見えてこないが、現時点ではっきり言えることが1つある。この戦争におけるロシア軍の苦戦は、中国の人民解放軍にとって人ごとではない、ということだ。ロシア軍と人民解放軍の間には、共通する欠点がいくつもある。

1つは腐敗の蔓延だ。ロシアには汚職がはびこっていて、腐敗によりロシア軍の能力も大きく損なわれている。この10年間で中国でも多くの軍人が汚職で摘発されたことから考えると、人民解放軍の内部にも腐敗が横行している可能性がある。

2012年11月に中国共産党のトップに立った習近平(シー・チンピン)が反汚職キャンペーンを大々的に展開し、5年間で100人以上の将校が検挙された。軍事の最高機関である中央軍事委員会の副主席(制服組トップ)経験者2人も、収賄で逮捕された。捜査中に自殺した中央軍事委のメンバーもいた。

習の反汚職キャンペーンにより、人民解放軍の腐敗が一掃されたのだろうと思う人もいるかもしれない。しかし、その可能性は低い。腐敗を可能にしてきた要素──縁故主義、監視の欠如、秘密主義など──はほとんど改められていないからだ。

中国軍は米軍と戦えるのか

中国の人民解放軍は、ロシア軍と同様の構造的欠点も抱えている。装備偏重の発想、実戦を想定した訓練の不足、お粗末な兵站(へいたん)機能、軍全体の統合作戦能力の欠如などだ。加えて、硬直的なトップダウン型の指揮命令系統に依存しすぎていて、戦場で現場レベルの将校や兵士が主体的に判断して行動することが難しくなっている。

中国とロシアの軍に共通するもう1つの弱点は、政治の影響だ。現在のロシア軍は縁故支配が強いが、旧ソ連の赤軍の文化を色濃く受け継いでいる人民解放軍は、今のロシア軍以上に政治の影響が強い。ソ連崩壊後に共産党の支配を脱却したロシア軍と異なり、人民解放軍は中国共産党の完全な支配下に置かれていて、共産党の一党支配を守ることを最大の任務にしている。

そのため、将校の任命と昇進は、軍人としての資質だけでなく、共産党への忠誠度に大きく左右される。下級将校も任命前に政治的審査が行われる。その結果として、政治と軍の二重の指揮命令系統が並立し、混乱が生まれやすい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イタリアは今年の成長率0.7%、工業は急激落ち込み

ワールド

NZ製造業PMI、11月は45.5に悪化 4カ月ぶ

ワールド

タイ、25年に最低法人税導入計画 多国籍企業対象=

ビジネス

英シェル、投資家向け説明会を来年3月に前倒し開催
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 5
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    プロ投資家の目で見ると...物流の2024年問題の裏で成…
  • 8
    日本から学ばず、デフレ・経済停滞から抜け出せなそ…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 9
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 10
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 10
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中