最新記事

習近平

習近平「歴史決議」の神髄「これまで解決できなかった難題」とは?

2021年11月13日(土)13時48分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

それが最も顕著に表れたのは軍部である。特に陸軍を中心とした参謀が管轄していた昔ながらの「軍区」は、どうにも動かしがたいほどの、巨大にして強固な腐敗の巣窟と化し、ここにメスを入れなければ胡錦涛が第18回党大会の初日(11月8日)に悲痛な叫び声のような、総書記としての最後の講演をしたように「腐敗を撲滅しなければ党が滅び、国が亡ぶ」状況にあった。

しかし、相手は軍隊だ。

ストレートにメスを入れればクーデターが起きる。

その危険を避けて、軍から腐敗の巣窟を一掃するには、軍や公安(当時は武装警察)で異様なまでの力を握っているトップの幹部を「腐敗」により逮捕する以外に道はなかった。この手法は胡錦涛と習近平の間で綿密に打ち合わせて実行に移されたのだと、今は亡き高齢の元党幹部が耳打ちしてくれたことがある。

これにより軍のハイテク化を妨げていた重石のような軍部の腐敗の巣窟を切り崩し、ようやく2015年12月31日に「軍事大改革」を成し遂げたのである(その一部は2016年1月2日のコラム<中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化>で述べた)。

同時並行で拙著『「中国製造2025」の衝撃』に書いたハイテク国家戦略の実行が可能になり、軍事力のハイテク化と先鋭化が実現した。

その結果、2021年4月21日のコラム<「米軍は中国軍より弱い」とアメリカが主張する狙いは?>に書いたように、中国のミサイル力がアメリカを凌ぐようになったとペンタゴンが認めるようになり、また最近になってアメリカの統合参謀本部議長をして、「中国の極超音速ミサイル、『スプートニク』に匹敵」と言わしめるほどに至ったのである。

これが図表1,2の赤線の後にある言葉(黄色部分)「党と国家の事業を推し進め、歴史的な変革をもたらしたのである」に現れている。

日本では「反腐敗運動は習近平が政敵を倒すための権力闘争だ」という解説が研究者やメディアによって成され、真実を見る目を曇らせている。政敵を倒したので「ようやく権力基盤が安定した」という間違った認識が深く染みわたり、修正にしようもなくなっているほどだ。

不都合な事実を正視する勇気を持たなかった日本人は、やがてさらに「不愉快な現実」を目の当たりにすることになるだろう。日本の国益のために警告を発したい。

なお、このたびの「歴史決議」から読み取れる情報は膨大で、特に拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』との兼ね合いを読み解いていきたいのだが、文字数の制限上、今回は「これまで解決できなかった難題とは何か?」に焦点を絞るに留めた。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中