最新記事

イラク

イラク総選挙、最大の敗者はイランだった

Iran Is the Biggest Loser

2021年10月18日(月)16時30分
ミナ・アル・オライビ(UAEの英字紙ザ・ナショナル編集主幹)
ムクタダ・アル・サドル

次期国会の最も有力な政治勢力はシーア派指導者ムクタダ・アル・サドル(写真)率いる政治連合 Alaa Al-Marjani-REUTERS

<フセイン政権崩壊以降、5回目の総選挙が行われた。対外強硬派が第1党を維持。親イラン武装勢力は暴力に訴える可能性をにおわせている。地域大国イラクの今後を読み解く>

イラクでは10月10日、国民議会総選挙(定数329議席)が実施された。総選挙は2003年のフセイン政権崩壊以降、5回目となる。

最終結果はまだ出ていないが、最大の敗者は親イラン武装勢力およびイラクの民主主義になりそうだ。親イラン武装勢力は早くも選挙結果を認めないと主張し、暴力に訴える可能性をにおわせている。

今回の選挙はイラクの民主主義の敗北でもある。選挙不正を疑って有権者の約60%が投票を棄権した。

それでもイラク政府と選挙監視団は選挙の成功をアピール──選挙は比較的スムーズに実施され、暴力沙汰もなく、ほとんどの有権者が投票所に足を運びやすかった、と主張している。2018年に行われた前回の選挙のような不正をなくすため、今回から電子投票システムが導入されていた。

にもかかわらず、イラク政府と選挙管理委員会が集計結果を発表するとしていた翌11日、発表されたのは全19州のうち10州のみ。首都バグダッドを含めて残りはまだ集計中だった。

選挙管理委員会がウェブサイトで暫定結果を発表すると、結果を知りたい国民からのアクセスが集中してサイトがダウン。電子集計の遅れにより、一部は外部の監視の目がない状態で手作業で集計せざるを得ず、国民はさらに不信感を募らせている。

緊張状態は依然続いている。クッズ部隊(イラン革命防衛隊の特殊部隊)司令官でイラクとのパイプ役であるイスマイル・カーニがバグダッド入りし、イランとイラクの親イラン派が集計結果を改ざんするのではという噂に拍車を掛けた。

選挙での親イラン派の不振にイランが不満を持っても不思議はない。イラクでは親イラン派の大物たちが選挙の違法性を訴えている。

過激なイスラム教シーア派民兵組織が支配するファタハ連合は議席数を改選前の48から大幅に減らしたもようで、ファタハ連合を率いるハディ・アル・アミリは選挙結果を拒絶する可能性をちらつかせた。

イラン寄りのシーア派民兵組織カタイブ・ヒズボラの新党は1議席のみ獲得。カタイブ・ヒズボラの指導者アブ・アリ・アル・アスカリは選挙管理委員会に対する暴力までにおわせている。

民兵を締め付けるサドル

最終結果は発表待ちだが、次期国会の最も有力な政治勢力はシーア派指導者ムクタダ・アル・サドルだろう。サドル率いる政治連合は前回より約20議席増の73議席以上を獲得する見込みだ。

サドルは第1党の党首として次期政府の顔触れを決めることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中