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日本の対ミャンマー政策はどこで間違ったのか 世界の流れ読めず人権よりODAビジネス優先

2021年4月7日(水)06時30分
永井浩(日刊ベリタ)

日本政府は当然、アジアにおける開発から民主化へという時代の流れや、冷戦後の人権、民主主義の普遍性尊重という国際社会の潮流を知らないはずはない。また、米国との価値観を共有する同盟国という外交政策の看板の大切さも理解している。かといって、経済援助をつうじたミャンマーの軍政への長年の肩入れと、それがもたらすODAビジネスをやめるわけにもいかない。そこで持ちだされたのが、ODAは軍政を民主化へと前進さていくために供与しているという、いわゆる建設的関与政策なるものである。

しかしこの主張がいかに欺まんにみちたものであるかは、クーデターから2ヶ月ちかく経つ3月25日にロイター通信が流したニュースが実証している。

「日本の官民連合、ミャンマーで不動産開発」と題する記事はこう報じている。


ミャンマーで総額300億円以上の不動産開発事業を進める日本の官民連合が、ホテルやオフィスなど複合施設を建設する用地の賃料を支払い、それが最終的にミャンマー国防省に渡っていたことが分かった。ロイターが取材した複数の日本企業、政府関係者が認めた。

「ヤンゴン市内都市開発(Yコンプレックス)」と呼ばれるこの事業が、ミャンマー国防省の利益につながっていたことを日本側が認めたのは初めて。日本側は賃料の支払い先が国防省であり、ミャンマー政府だと認識していたが、国防省は2008年に制定された憲法上、国軍の支配下にある。

同事業には日本から大手ゼネコンのフジタコーポレーション、大手不動産の東京建物のほか、日本政府が95%を出資する海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が参画。政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)も融資をしている。

賃料を支払うのは違法ではないものの、事業が始まった2017年は、ミャンマー国軍によるイスラム教徒の少数民族ロヒンギャへの人権侵害が問題となっていた。国際司法裁判所は虐殺について調査を進めている。国軍は今年2月には軍事クーデターで政権を奪い、これまでに、抗議活動に参加した市民260人以上を殺害している。

ミャンマー国防省、国軍のコメントは得られていない。

JBICが2018年に発表したニュースリリースによると、融資は三井住友銀行、みずほ銀行との協調で実施。両行ともロイターの問い合わせにコメントを控えた。

Yコンプレックスに対する今後の関与についてJOINの担当者は、コメントを避けた。現在の状況については「悩ましい。難しい」と述べるにとどめた。

フジタと東京建物はそれぞれ電子メールで回答し、状況を注視しながら関係者と協議し、対応を検討するとしている。

*この記事は、日刊ベリタからの転載です。

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