トランプ主義への対処を誤れば、トランプは「英雄、殉教者、スローガン」になる
ACCOUNTABILITY OR UNITY
ウォーターゲートを教訓に
その政治課題の大半──追加景気刺激策としての給付金、雇用創出のための大規模なインフラ支出、石炭・鉄鋼業界の労働者にグリーンエネルギー関連企業で必要なスキルを習得させる研修プログラムの構築予算など──は白人労働者階級の多くをトランプ支持に走らせた不安を和らげられるはずだと、バイデン派はみている。
トランプ支持者が広めた、ありもしない「選挙不正」をめぐって2020年の大統領選を再調査する計画はない。
だからといって、バイデンがアメリカ社会の亀裂、特に人種をめぐる亀裂を無視するというわけではない。何らかの成算はあるだろうが、バイデン自身はごくさりげなく触れるにとどめるだろうと、別の側近は言う。
「しかるべき合図、トランプ派に対して彼らの統治者でもありたいというメッセージを送るだろうが、その一方では、白人至上主義を非難し再び脇に追いやる取り組みを支持するはずだ」
だが、そう簡単にはいかないかもしれない。脱急進化を研究しているメリーランド大学のアリー・クルグランスキー教授(心理学)は、バイデンをはじめ民主党幹部はトランプ支持者を辱めたり侮辱したりしないようにするべきだと考えている。
「過激な言葉遣いをトーンダウンし、あらゆる復讐心を軽減することが先決」だとクルグランスキーは言う。「そのためには『選挙が盗まれた』とする人々をはじめトランプに投票した有権者を悪者扱いしないこと。彼らの反感を買えば、再び取り込むことが難しくなる。これまでも党派を超えて協力してきたバイデンなら、資質がありそうだ」
では、恩赦は与えるべきかどうか。
バイデンが直面する問題に唯一似ているのは「長い国家的悪夢」、すなわちウォーターゲート事件だと、大統領史に詳しいテキサス大学のシャノン・オブライエン助教は言う。
リチャード・ニクソン大統領が民主党全国委員会本部侵入事件の隠蔽工作に関与したことが露見。1974年、辞任したニクソンに代わって大統領に就任したジェラルド・フォードは、ニクソンが在任中に犯した連邦法上の犯罪全てに恩赦を与えた。
その直後のギャラップ社の世論調査では国民の53%が恩赦に反対。この恩赦が1976年の大統領選でフォードが民主党のジミー・カーターに敗れた一因だと識者は長年考えてきた。しかし1986年には一転して、フォードは国の前進のために正しいことをしたと考える国民が54%に上った。
事件当時デラウェア州選出の新人上院議員だったバイデンは「彼なりにこれを歴史の教訓とし、フォードが買った反感、恩赦を決断して生じた不信と冷笑主義を避ける選択をするだろう」と、オブライエンは言う。
実際、バイデンは既に恩赦の可能性を排除している。昨年5月、トランプの在任中の財務不正などで捜査の可能性が取りざたされるなか、恩赦の可能性を問われて、バイデンは「一切干渉しない」と答えた。
「司法長官は大統領の弁護士ではない。国民の弁護士だ。司法省がこれほど悪用されるのは前例がない」