最新記事

中国

習近平の軍民融合戦略と、それを見抜けなかった日本

2020年10月20日(火)21時48分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

だから「中国が軍民融合戦略を推進しても何ら問題はない」というのが中国側の主張だ。

アメリカが目を付けた中国の軍民融合戦略のスパイ行為

習近平は2017年1月22日に中央軍民融合発展委員会を設置し(主任:習近平、副主任:李克強など)、同年6月20日に第一回全体会議を、2018年10月15日に第二回全体会議を設置した。その中で「民間の科学技術と協力し合いながら軍民融合戦略」を推進していくとしている。

特に注目しなければならないのは中央軍民融合発展委員会の全体会議を通した「通知」で、軍民融合プロジェクトには絶対に「中国、中華、全国、国家、国防、中国人民解放軍」などの文字を使ってはならないという指令を出したことである。「あくまでも、民の衣を着ていなさい」と命令したのだ。

この辺りからアメリカが警戒し始めた。

2019年9月25日にアメリカの非営利団体C4ADSが安全保障問題における中国の「軍民融合戦略」に関する報告書を発表し強い警鐘を鳴らした。

それにつれて日本も初めて警戒感を抱くようになり、経産省でも経済安全保障管理に力を入れているようだが、何せ、肝心の政権与党・自民党の二階幹事長が中国のシャープパワーの虜になり、何百人、ときには何千人の経済人を引き連れて北京詣でをしているではないか。 その中に「軍需企業の一覧」に関係する企業がないという保証はない。

もちろん、日本学術会議の元メンバーが学問への渇望に燃えて、無自覚のまま中国の「表面からは見えない軍民融合に貢献していること」も注目には値するが、日本政府自身が「自覚しながら」中国の軍民融合戦略に「見て見ぬ振りをしながら」奉仕しているとすれば、罪はあまりに重すぎる。

本日、読売新聞の報道によれば、コロナで中断していた日中の往来が再開されるとのことで、「中国からのビジネス目的の入国者は約37万3000人(2019年)で、中国の日系企業数は約3万2000社(17年)。いずれも国・地域別で最多となっている」とのこと。

日本政府はアメリカのように習近平の「軍民融合発展戦略」に引っかからない企業の交易内容をチェックするのができるのだろうか。日本学術会議メンバーの無自覚の善意による中国への貢献と共に、そのことを危惧する。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中