最新記事

感染症

香港、新型コロナウイルスでデモは消えたが...... 行政府や中国への感情さらに悪化

2020年3月2日(月)12時05分

反中ムード

ラム長官は、境界の全面封鎖について、差別的かつ非現実的だとして拒否している。香港行政府は、決定は世界保健機関の指針に基づいており、政治的な動機によるものではないとしている。

行政長官の事務局はロイターに対して「感染に対処するうえで行政府はただ公衆衛生だけを考慮しており、その行動は、確固たる科学的かつ専門的な勧告に裏付けられている」と述べている。

またラム長官は、ウイルスのまん延に対処し、企業の財務的な打撃を緩和するための措置に300億香港ドル(約4260億円)を投じると約束している。

すべての香港住民が行政府を批判しているわけではない。香港荷主協議会でエグゼクティブ・ディレクターを務めるサニー・ホー氏は、ラム長官が取った措置に満足していると述べ、「(批判派は)行政府が考慮しなければならない困難をひどく過小評価している」という。

だが、このように理解を示す人は少ない。香港住民の多くは、2003年にやはり中国本土で始まり、香港でも300人近い死者を出した重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を記憶している。

一部では、中国本土の住民や来訪者に対する敵意にまで転じている。

ソーシャルメディアで流布しているリストには、コロナウイルスのリスクが高いと見なされる地域からの来店客を拒否しているレストラン34店が記載されている。一部のレストランの店頭には、健康上の懸念を理由として「本土出身者お断り」の貼り紙が見られる。

美容室エッジー・サロンはフェイスブック上で「香港住民限定」で営業すると発表し、クォン・ウィン・ケータリングは、「境界が封鎖されないので、当店を封鎖します」と掲示している。

民主派のフェイスブックページでは、中国本土からの観光客をだまして、品薄になったハンドソープと見せかけて性的な用途のローションを売りつけた話が投稿されて人気を集めている。

「新たな最前線」

先週、政府が所有する公共住宅の一部を新型ウイルス検疫センターに転用する計画について、住民との協議が不足していることに怒る反対派の抗議集会が、少なくとも3地区で行われた。

1月には、抗議参加者の一団が転用対象ビルのロビーに放火した。

2019年末以降に結成された40余りの民主派労働組合の一部は、新型ウイルス流行に対してより組織的なアプローチを主導しており、現在の勢いを生かして香港行政府にさらに圧力をかけていこうと計画している。

医療従事者のストライキを企画したHAEAのウィニー・ユー会長は、労働組合を「我々の抗議活動の新たな最前線」と呼んでいる。

前出のチュン氏は、新たに結成された組合の大半は加入者をもっと増やさなければ変革を強いる力にはならないとしながら、他組合も「リレーのバトンを受け継いでストライキを継続して」ほしいと期待している。

新たに結成された会員数450人強の香港ホテル従業員組合のアレックス・ツイ会長は、HAEAのストライキについて、「香港人はストをやらないという思い込みを打破した」と話している。

(翻訳:エァクレーレン)

Sarah Wu

[香港 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・新型コロナウイルス感染広がるイタリア ローマ法王が病もバチカン重病説を否定
・新型コロナウイルスの流行で中国は野生動物を食べなくなるか
・世界経済を狂わせる新型コロナウイルスの脅威──最大の影響を受けるのは日本


20200310issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ・カンボジア、24日に停戦協議 ASEAN外相

ビジネス

中国万科、債権者が社債の返済猶予延長を承認 償還延

ワールド

中国、萩生田氏の訪台に抗議

ビジネス

焦点:人民元国際化に低金利の追い風、起債や融資が拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中