最新記事

ラグビーW杯

日本が強くなったのはラグビーがグローバル化したからだ

JAPAN’S GREAT LEAP FORWARD

2019年10月22日(火)12時20分
長岡義博(本誌編集長)

日本代表ヘッドコーチのジョセフ(中央)は選手としてもかつて日本でプレーした(10月13日) AFLO

<屈辱の大敗から24年後の劇的な勝利、そしてW杯での8強入りは、グローバル化という「必要条件」なしに実現しなかった――。ラグビーの未来と課題に焦点を当てた本誌「躍進のラグビー特集」より>

今なお日本ラグビー最大の悪夢は1995年6月4日、南アフリカ・ブルームフォンテーンで行われた第3回ワールドカップのニュージーランド戦、17対145の敗戦であることに議論の余地はない。
20191029issue_cover200.jpg
だが、屈辱の大敗はこれにとどまらない。ブルームフォンテーンの惨劇から9年後の2004年11月、日本代表はスコットランド中部パースで同国代表と戦い、8対100で敗れている。ニュージーランド戦は21トライを奪われる無残な試合だったが、このスコットランド戦も相手に15トライを献上するひどい内容だった。

128点差から24年後、92点差から15年後の10月13日、ワールドカップ日本大会で日本代表はスコットランドに28対21で堂々と競り勝ち、4戦全勝のグループリーグ1位で決勝トーナメントに進んだ。「ティア1(強豪国)」と接戦することがせめてもの願いだった往時のファンたちに、タイムマシンに乗ってこのニュースを知らせに行ったら、どんな顔をするだろう。

彼らはきっと、口をあんぐりと開ける。そして、こう聞くに違いない。「どうやって日本代表はそんなに強くなったんだい?」と。

負け癖が染み付いた日本の選手たちを猛練習で徹底的に鍛え上げ、世界が気付かないうちに日本代表の力を世界レベルに引き上げ、2015年イングランド大会初戦で横綱相撲を取ろうとした南アフリカをうっちゃったエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチの功績は言うまでもない。この大会で日本は、3勝を挙げながら決勝トーナメントに進めない初めてのチームになった。勝つことに必死で、「ボーナスポイント」にまで頭が回らなかったからだ。

現ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフと、その名参謀トニー・ブラウンの力量もまた疑う必要はない。ジョセフもブラウンもニュージーランド国民の英雄と言っていいレベルの「オールブラック」だったが、何より世界最高峰の国際プロリーグ「スーパーラグビー」の弱小チームだったハイランダーズを指導者として優勝に導いた実績がある。

代表選手たちの献身と努力は語るまでもないだろう。ジョセフは最近、「日本代表選手の日当は1万円」とぼやいたが(ちなみにイングランド代表の手当は1試合2万5000ポンド)、プロップの稲垣啓太は今大会中の記者会見でこんな健気な言葉を残している。

「生きていく上でお金は必要だと思うけど、僕らはお金が欲しくてお金のために日本代表として動いているわけじゃない、僕らなりの信念があって活動している。お金は僕らがコントロールできる部分ではないので、特に気にしていない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ビジネス

米マスターカード、1─3月期増収確保 トランプ関税

ワールド

イラン産石油購入者に「二次的制裁」、トランプ氏が警

ワールド

トランプ氏、2日に26年度予算公表=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中