最新記事

フィリピン

世界で唯一戒厳令のある島フィリピン・ミンダナオ島 延長か終了か再び焦点に

2019年9月24日(火)17時38分
大塚智彦(PanAsiaNews)

大統領の本心は戒厳令の延長か

ドゥテルテ大統領が戒厳令の延長は「地元次第」との姿勢を示したが、ミンダナオ島の主要都市ダバオはドゥテルテ大統領が長年市長を務め、現在も大統領の長女サラ・ドゥテルテさんが市長を務めるという、いってみればドゥテルテ大統領の地元である。このため大統領の意向を忖度して戒厳令に対する姿勢を表明する可能性が高く、客観的な判断に基づく「戒厳令の要不要」が判断できるのか、疑問視する見方もある。

ドゥテルテ大統領自身は一時戒厳令のフィリピン全土布告を考慮したこともあるとされており、南部を中心としたイスラム系の過激派やテロ組織などの反政府武装勢力を封じ込めるためにも、治安部隊に超法規的措置を認める「戒厳令」は有効な手段として継続しておきたいのが本心といわれている。

依然として続くテロ組織との戦い

ミンダナオ島の戒厳令は2017年5月、地元の武装組織「マラテグループ」と中東のテロ組織「イスラム国(IS)」と関係があるとされるイスラム系テロ組織メンバーなどが南ラナオ州マラウィ市を武装占拠したことを受けてドゥテルテ大統領が布告した。

マラウィ市は同年10月に国軍と武装勢力との戦闘の末解放され、武装占拠は終了した。しかし、残党がミンダナオ島各地に逃走潜伏している可能性が高いことから戒厳令はその後も延長を繰り返し、現在の戒厳令は2019年末で期限を迎える。

戒厳令下のフィリピン南部だが、今も依然としてテロ組織による活動が最近も続いている。

9月18日にはミンダナオ島南部の南コタバト州ジェネラル・サントス市バウィンで地元のテロ組織「アンサール・ヒラファ・フィリピン(AKP)」の爆弾製造担当者とみられる23歳の男の自宅を警察部隊が急襲して逮捕した。自宅からは改良型爆弾起爆装置、ライフル、手榴弾のほかにISの旗が押収されたという。

また9月19日には2017年のマラウィ市武装占拠に関連したマウテ・グループの残党とみられる男3人をやはりミンダナオ島の南ラオナ州ピアガポで逮捕している。

現地のフィリピン軍関係者は人権問題を主に伝える「ブナ--ル・ニュース」に対して「3人の逮捕は一般市民からの情報に基づくものだ」と明らかにし、残党テロリストが市民の間に紛れ込んでいる状況を指摘した。

こうしたミンダナオ島で相次ぐテロリストの摘発は、果たして「戒厳令」の効果によるものなのか、それとも「戒厳令」にも関わらずテロリストが依然として活動しておりその効果に疑問符がつくのか、フィリピン国内でも議論が分かれている。

戒厳令の期限切れを迎える年末に向けて今後さらに戒厳令延長を巡る議論は高まるとみられ、ドゥテルテ大統領の判断が注目されている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最

ワールド

米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国務長

ビジネス

クアルコム、4─6月業績見通しが予想超え スマホ市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中