『NHKから国民を守る党』はなぜ議席を得たのか?

2019年7月31日(水)13時15分
古谷経衡(文筆家)

だからこそ、立花氏は、日本文化チャンネル桜によるNHK集団訴訟がしりすぼみに終わり、所謂「保守派とネット右翼」の攻撃の矛先がNHKから朝日新聞や沖縄に向かうにつれ、急速に「保守界隈」「保守論壇」から遠ざかっていった感がある。

3)もはや「古典」だった「NHKをぶっ壊す」

だから、「NHKをぶっ壊す」という現在のN国の象徴的フレーズは、実は10年近く前から、「NHKを反日放送局と呪詛する保守派やネット右翼」においては、すでに集団訴訟を起こすほどにまで発展していた「古典的なメディア呪詛」の一種であり、別段立花氏が考案した新しい世界観では無い。

その後、所謂「NHKを反日放送局と呪詛する保守派やネット右翼」は、その矛先をフジテレビや電通、花王、ロート製薬など民間会社に向け、やがて前述NHK訴訟がチャンネル桜側の完全敗北に終わると、NHKへの潜在的な敵意を内包したまま、その攻撃の前衛は朝日新聞やTBS、やがて故・翁長沖縄県知事や沖縄の基地反対派に向けられていくことはすでに簡潔に述べた。

つまり私は何が言いたいのかというと「NHKをぶっ壊す」という主張自体、所謂「保守派やネット右翼」にとってはすでに現在「古典」となっている、ということである。その「古典的フレーズ」をN国は執拗に繰り返す。これは「現在の保守派やネット右翼の主流」とは異質のものだ。

ネット右翼の現在の「トレンド」で言うなら、嫌韓や反中である。「保守派やネット右翼」は、NHKに対する反抗心は持っているとはいえ、その度合いは10年弱前から明らかに減衰している。

2010年前後と違い、NHKの番組に対して「偏向だ!反日だ!受信料を払わない!」と呪詛するネット右翼は、そんなに多くはない。むしろNHKは現在、反政権思考の人々や、政治的左派から「政権忖度だ!」として攻撃にあっている。NHKはもはや、ネット右翼の攻撃の対象ですらないのだ。それをいうのなら、その攻撃の度合いは、朝日新聞や東京新聞に対する方が100倍濃密であろう。

4)旧「次世代の党」との対比

2014年衆院選挙時に維新から分派する形で「次世代の党」が誕生すると、「保守界隈」「保守論壇」はその総力を以て全身全霊で同党を応援した。「保守界隈」「保守論壇」に寄生するネット右翼は、「小選挙区は自民、比例は次世代」がキャッチフレーズになってネット上に一大旋風を巻き起こした。結果、「次世代の党」はこの時、比例ブロック合計で141万票を獲得したが比例はゼロ。わずかに小選挙区で2議席にとどまって壊滅した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中