最新記事

日本外交

日本のイメージを世界で改善している「パブリック・ディプロマシー」とは

2019年5月10日(金)17時00分
桒原 響子(未来工学研究所研究員)*東洋経済オンラインからの転載

日本のPDには柔軟性に欠ける面がある。政府のPDは文化に頼りすぎる傾向にあるともいえるし、現行のPD戦略に固執するあまり、周辺国のPD戦略の推移やアメリカの反応の変化などに敏感に反応できていない可能性もある。これは、PDの中核組織である外務省の意思決定プロセスが厳格であることにも影響しているかもしれない。

「信頼度が高い」からといってうかうかもしていられない。「日本は信頼できるが、パートナーとしては別の国を選ぶ」という選択肢もあるからだ。国際社会では、信頼とパートナーが必ずしもイコールではなく、パートナーとして選ばれるということは、PDの最終目標である、「対象国の世論を味方にする」ということでもあるのだ。

メッセージの発し方にも工夫が必要

実際、中国の存在感は注視しなければならない。ASEAN諸国において信頼度が低い中国でも、「今後重要なパートナー」とする同地域の世論は、2015年度から40%代前半を維持しており、今後どうなるか予断を許さない。

toyo-keizai_190510_01.png

(出所)外務省「海外における対日世論調査」をもとに筆者作成
(注)ASEAN10カ国対象

仮にPDが効果を生む以前の段階にあっても、内政、経済、他国との外交関係といった数多くの外的要因がPDの成果に影響を与える。よい影響であれ、悪い影響であれ、である。さらにこれらの要因は相乗効果を生み、PDの効果が予想を超えて乱高下することもある。PDには、長期的な視点と不断の努力に加え、柔軟な対応が必要であるだけでなく、タイミングなどの偶然が結果を左右することもあるのだ。

メッセージの発信の仕方も工夫しなければならない。この工夫には、歴史や国際秩序について、中国や韓国に単純に対抗する形で発信することの効果について、今一度考え直すことも含まれる。

日本の魅力や価値観などに関する普及活動は、それが相手にとって魅力的でなければ、広がりを期待することは難しい。独り善がりの発信や働きかけであれば、それはプロパガンダと捉えられてしまうからだ。受け手の興味や関心、ニーズを把握しない形で行われる、いわゆる一方通行の発信になってしまえば、せっかくのPDも効果を持たず、実を結べない。

また、ソフト・パワーの代表格である文化の発信に過度に偏っていては、好感度を上げることはできても、パートナーとして選択される保証はない。日本のPDの強みと弱み。これをどう活かし、文化の発信を超えた戦略的対外発信へと導くか。安倍政権下のPDの新戦略が本年度で5年目に差し掛かった。今こそ、これまでの成果をレビューし、戦略を見つめ直す時なのではないだろうか。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米株から日欧株にシフト、米国債からも資金流出=Bo

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、4月改定49.0 32カ月ぶ

ビジネス

仏製造業PMI、4月改定値は48.7 23年1月以

ビジネス

発送停止や値上げ、中国小口輸入免税撤廃で対応に追わ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中